NASAの「Space System Protection Standard(NASA-STD-1006)」は、2022年に発表されたNASAのすべてのプログラムおよびプロジェクトに適用される技術基準です。この基準は、NASAのミッションが脅威に対して強靭であることを保証するための保護要件を確立しています。具体的には、プロセス、手順、プラクティス、および方法に関する統一的なエンジニアリングおよび技術要件を提供し、選択、適用、および設計基準に関する要件も含まれます。
本基準の目次構成は以下のとおりです。
表1:目次構成
章番号 |
章タイトル |
概要 |
1 |
適用範囲 |
本基準の目的、適用範囲、テーラリングの考え方について説明しています。 |
2 |
適用文書 |
本基準に適用される政府文書、非政府文書を列挙し、文書間に矛盾がある場合の適用優先順位を定義しています。 |
3 |
頭字語、省略語及び定義 |
本基準で用いる頭字語、省略語の一覧と、用語の定義を説明しています。 |
4 |
宇宙システム保護要件 |
宇宙システムに求められる保護要件を定義しています。 |
4.1. |
コマンド権限の維持 |
宇宙システムへの不正アクセスを防止し、データの完全性を確保し、衛星などの宇宙機に送信するコマンドの実行権限を維持するために必要な保護要件を定義しています。 |
4.2. |
PNTレジリエンスの確保 |
GPS(Global Positioning System)などが提供するPNT(Positioning, Navigation, Timing)の抗たん性を確保、維持するために必要な保護要件を定義しています。 ここで、PNTとは位置情報(Positioning)、道案内(Navigation)、時刻(Timing)の3つの要素で構成されており、スマートフォンなどで利用されており、私たちの日常生活に欠かすことのできない重要な役割を果たしています。 |
4.3. |
原因不明の干渉の報告 |
当局が原因不明の電波干渉を早期に検知し、宇宙機との無線通信を維持するために、運用者による当局への報告や訓練などの保護要件を定義しています。 |
本基準が要求する宇宙システムの保護要件は6つあり、概要は以下のとおりです。
表2:保護要件一覧
要件番号 |
保護要件の概要 |
SSPR 1 |
コマンドスタックをFIPS140以上の強度で暗号化すること。 |
SSPR 2 |
プライマリコマンドリンクを暗号化した場合は、バックアップコマンドリンクにも少なくとも認証を導入すること。 |
SSPR 3 |
コマンドリンクの技術情報を保護すること。 |
SSPR 4 |
PNTの完全な喪失または一時的な干渉に対して回復力を有すること。 |
SSPR 5 |
事前に規定された当局に原因不明の電波干渉を報告すること。 |
SSPR 6 |
電波干渉を報告する訓練を実施すること。 |
図:保護要件のイメージ
SSPR1,2,3は宇宙機との通信に使用する通信回線であるコマンドリンクを暗号化や認証の要件を定めています。一般に、宇宙機に無線で命令を送るコマンドリンクは、定常運用で用いるプライマリ、プライマリが使用できない場合に用いるバックアップの2種類が用意されています。その両方を適切に保護することを要求しています。
SSPR4は、GPSの信号が無効な値の場合にも衛星のPNT計算処理が正しく動作するか回復力をテストすることなどを要求しています。
SSPR5,6は、コマンドリンクやGPS信号などに原因不明の電波干渉が生じた場合に当局に報告することや報告の訓練を要求しています。一般に、太陽から放射されるX線などの電磁波が通信に宇宙機との通信に影響を与えうることが知られています。このような予期せぬ電波干渉をいち早く察知するために、報告とその訓練が要求されています。
このように、NASAでは脅威に対して強靭であることを保証するための保護要件を確立しています。