量子コンピュータ(Quantum Computer)とは、量子ビットが「0」と「1」を同時に持てる性質を活かし、膨大な組み合わせを一括で計算できる、従来の計算原理を一新する革新的なコンピュータです。わずか数量子ビットでも同時に扱える状態が指数的に増えるため、最適化や機械学習、分子シミュレーションなどで大幅な高速化が期待されています。
2019年にはGoogleが54量子ビットのプロセッサ「Sycamore」で、従来のスーパーコンピュータなら1万年かかる演算を約200秒で完了したと発表し、世界中の研究開発競争に拍車がかかりました。日本でも内閣府が量子技術を国家プロジェクトとして推進しています。
一方、この計算力はRSAやECCといった現行の公開鍵暗号を短時間で破る可能性を秘めています。将来の量子時代を見据え、企業は耐量子計算機暗号(PQC)への移行や、従来の暗号とPQCを併用するハイブリッド方式による段階的対応が求められます。
量子ビットを安定して制御するための極低温環境やエラー訂正、人材育成など課題はまだ多く、限定的な実用化は2030年前後、本格普及は2040年以降と見込まれています。それでも、物流ルート最適化や新薬開発、量子鍵配送(QKD)による安全通信など、リスクと恩恵は表裏一体であり、今から備えることが重要です。