導入の背景や課題
丸紅ITガバナンスルールで定めるセキュリティ基準の達成状況を可視化するため、全社へアセスメントを実施
丸紅株式会社 情報企画部長 橘高 弘一郎氏
丸紅グループでは、グループ全体のセキュリティ対策の継続的な向上・改善を目的に、2012年に「丸紅ITガバナンスルール(以下、ITGR)」を策定し、継続的にアップデートしています。ITGRは全96項目にわたる要件から構成されており、事業規模や社員数に応じて、会社ごとに満たすべきセキュリティ基準を定めています。丸紅グループのすべての企業を対象としていますが、専任のIT部門を持たない会社等ではITGR遵守のための対応が大きな負担となるケースもあります。そこで現場の負担を軽減するため、ITGRに準拠したセキュリティ対策を網羅したグループ共通ITサービス「M-IGS」を整備し展開しています。各社はM-IGSを導入することで「Office365」などのビジネスツールを低コストで利用できると同時に、ITGRをクリアしたセキュアな業務環境が実現できるようになっています。
本社からのITGR遵守の要請に対し、一部の企業からは「すでに自社で十分な対策を行っている」との声が上がることもありました。しかし本社としては、個社ごとのセキュリティレベルがITGRで定める水準に達しているか、また日々高度化するサイバー攻撃に対応した継続的なアップデートがされているかを、確実に把握しておく必要があります。こうした背景からM-IGSを導入していない会社の現状評価を目的に、2019年にリスクアセスメントを開始しました。現在では、すべての企業を対象にM-IGSの導入とアセスメントを実施しています。
導入について
確実に現状把握するための証跡確認と、グループ全社展開を実現するリモートアセスメント
丸紅株式会社 情報企画部 副部長 ITセキュリティ課長 加藤 淳一氏
アセスメント実施にあたり改めて複数のセキュリティ企業に声をかけた結果、ITGRの策定段階から伴走いただいており、丸紅の文化への理解も深いNRIセキュアに支援をお願いすることになりました。ITGRに沿って87項目からなる丸紅独自のアセスメントを、丸紅とNRIセキュアのOne Teamで実施しています。アセスメントにおいて大きな特徴の一つとなっているのが、すべてのチェック項目において証跡の提出を必須としている点です。一般的なアセスメントでは、一部の項目についてはセルフチェック形式で回答を求めるケースもありますが、当社では実態と報告内容の乖離によって発生する可能性のあるインシデントリスクを避けるため、確実に現状把握するための運用を行っています。
アセスメントは1回あたり約120~150社を対象としています。これだけの社数を現地往査でカバーするのは現実的ではないため、Webシステムを活用したリモート型アセスメントを採用しました。対面でやりとりできないからこそ、現場負担をいかに軽減するかを重視したコミュニケーション設計が重要だと考えています。事業内容や社員数、言語・文化、セキュリティに対する理解度は会社ごとに大きく異なるため、定型的な全体メールを一方的に送るだけでは、かえって質疑対応等の負担が増えてしまいます。初回のアセスメントではNRIセキュアの皆さんと連携しながら一社ずつ丁寧にコミュニケーションを重ね、現場の理解と協力を得られる関係性を築いていきました。
導入の効果
アセスメント結果の共有や改善にむけた支援策を通して、グループ全体のセキュリティ成熟度が向上

アセスメントによって不足が見られた場合にはM-IGSの導入や改善計画を策定したうえで、翌年に再度アセスメントを実施しています。自社だけでの改善が困難と思われる場合には、本社の戦略企画部や海外拠点の情報システム部門から人材を派遣し、現地で改善に向けた取り組みを支援することもあります。
また、アセスメント結果は各社の担当者に共有するだけでなく、経営会議等を通じて各部門の責任者にも報告しています。グループ全体の現状評価に加え、各社が抱えるリスクや課題、必要な対策とその進捗を責任者が正しく把握することで、現場としても経営層の理解を得やすくなり、セキュリティ対策に必要な予算を確保しやすくなります。結果の共有を通じて経営層と現場をつなぎ、グループ全体を俯瞰したガバナンス体制を構築できていると感じています。
これまでに初回アセスメントと定期アセスメント2回の計3回のアセスメントを実施してきましたが、回数を重ねるごとに評価点の全体平均は着実に向上しています。従来はA~Dの4段階で評価を行っていましたが、全体の取り組みレベルをB以上に底上げ出来たため、現在は従来の最高評価のAを5、4、3と三つに分ける一方、Bは2、C、D、Eはまとめて1とし、より高度な水準を目指した評価を行っています。グループ全体のセキュリティ成熟度が向上しているのは間違いありません。3回のアセスメントを通じて現場の理解も進んでいるため、アセスメント実施にかかるコミュニケーションコストも軽減しました。
今後の展望
最新の脅威動向を見据えた、実践的セキュリティ強化へ

これまで多くのセキュリティベンダーと協業してきましたが、NRIセキュアは真っ先に相談するパートナーとなっており、現在も最新の脅威動向を踏まえたITGRの改定や定期アセスメントの実施をはじめ、さまざまな取り組みを支援いただいています。今後はアセスメント範囲も、従来のコーポレートIT中心から、工場システム(OT/IoT)やWebシステム、ECサイトといったビジネスIT領域へと拡大していく予定です。将来的には評価頻度を高め、机上評価とシステム評価の両面から、より実効性が高く継続的なセキュリティ対応の実現を目指しています。
あわせて、ペネトレーションテストの実施も予定しています。インシデントを100%防ぐことは不可能であるという前提に立ち、特定の会社で被害が発生したという想定の訓練シナリオを作成し、法務や広報などの関係部門なども巻き込んだ全社的な演習を行う計画です。これまで、NRIセキュアの皆様には、セキュリティアセスメントにとどまらず、各種施策の推進支援やセキュリティポリシー策定の支援、丸紅グループ向け研修での講演、国内外の脅威動向に関する情報提供や調査など、さまざまな場面で支えていただきました。今後もご支援をいただきながら、より実践的で実効性の高いセキュリティ対策に取り組んでいきたいと考えています。
※本文中の組織名、職名は2025年12月時点のものです
