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NRIセキュア ブログ

セキュリティ、ととのってますか?|サウナもサイバーも安全を支えるのは「人」

目次

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    第三次サウナブームの到来を機に、ロウリュ(i)による心身のリフレッシュ効果をあらためて実感したITエンジニアやセキュリティエンジニアもいるのではないだろうか。株式会社楽天地オアシスが運営する「楽天地スパ」は、15年前からアウフグース(ii)でサービスを展開し、ブームを牽引してきた。

    日々の疲れを癒やし、明日の活力を生み出すサウナの運営のポイントを楽天地オアシスの支配人、柘植光男氏に伺ってみると、意外なことに、セキュリティ運用と多くの共通点を持つことがわかってきた。自身もサウナ愛好家で楽天地スパにしばしば足を運ぶNRIセキュアテクノロジーズの遠藤良二と境文也が、柘植氏と、楽天地オアシスの親会社として業務や従業員をサポートする東京楽天地の経営企画部情報システム課サブリーダー、平川茂雅氏に詳しく話を聞いた。

    情シスのやりがいは「推し活」!?

    遠藤:まず、東京楽天地グループのご紹介をお願いします。
    平川:東京楽天地は1937年に「清く正しく美しい娯楽を大衆に提供する」という理念の元に創業しました。祖業の映画興行にはじまり、不動産賃貸や天然温泉サウナ、そしてフットサルなど、時代の変遷に合わせて多様な娯楽サービスをお届けしています。
    柘植:楽天地スパが展開するサウナなどの温浴事業は1967年に始まりました。1983年にリニューアルをして「楽天地グランドサウナ」と呼んでいた当時は、少し暗いイメージがあったかもしれません。しかし今の第三次サウナブームでは間口が広がり、若い方も含め多様な方々が来ていただくようになり、イメージもかなり明るくなったように思います。
    Q:娯楽を提供するに当たっての情報システムの役割は何でしょうか?

    fig-4256写真左から株式会社東京楽天地 経営企画部情報システム課サブリーダー 平川茂雅氏
    東京楽天地グループ 公式キャラクター「らくてんちょー」

     

    平川:私たち情報システム部門は、柘植さんをはじめ、サウナやフットサルのようにお客様と接する部門の従業員、そしてそれらを支援する管理部門を含む組織全体を、ITツールを用いて二つの側面から支えたいと考えています。一つは生産性の向上です。もう一つは、お客様に新たな価値をお届けする「価値創造業務」に注力できる環境づくりです。

    世の中がすさまじいスピードで変化している今、お客様が体験したいと考える価値のハードルも高まっています。そんな中で、お客様に満足していただけるサービスを提供するには日々の創意工夫が必要です。ITはそうした思いを実現する有用なツールです。私らはそうしたツールを最大限に活用できる環境を整備したいと思っています。

    パソコンやスマートフォンに向き合う時間を減らし、一秒でも長くお客様と向き合い、社内外の人とお話ししてほしい、そのためにできるだけ効率化、自動化し、必要な情報を可視化したいと思っています。

    柘植さんのように熱い気持ちを持っている方たちは、業務負荷が減ると、空いた時間を使ってお客様のことを考え、何か新しい施策を実行し、その結果、お客様に喜んでいただくことができます。私はそれを見るのがすごく好きなんです。いわば「推し活」ですね。推しの方々が自分のやりたいことに向かって動けるようにすることが、情報システムの役割でもあり、やりがいでもあると思っています。
    Q:具体的にはどのようなツールをお使いなのでしょうか?

    fig-4250写真左からNRIセキュアテクノロジーズ 事業戦略推進本部 ビジネス推進部 部長 遠藤 良二
    セキュリティソリューション事業本部 クラウドセキュリティ事業部 シニアセキュリティコンサルタント 境 文也

     

    平川:最近はBoxやSlackといったツールを導入しました。社内外の方との円滑なコミュニケーションを実現し、外部のプロフェッショナルとのコラボレーションを促進するためです。東京楽天地という会社は小回りのきく規模なので、良くも悪くも自力で何とかしがちで、意識して外に目を向けていかないとガラパゴス化しかねません。しかし、世の中がこれだけ早いスピードで変化する中でお客様に満足のいくサービスを届けるには、外部のスペシャリストとの協働が不可欠です。

    実際、Google Workspaceをグループ全体に導入したことで、柘植さんをはじめ、グループ内の従業員とのコミュニケーションが取りやすくなり、「一緒に何かやりましょう!」という機会が増えました。
    柘植:以前は同じグループ会社でも、どういう人が何をやっているのか、顔が見えない状況がありました。チャットで情報交換できる環境が整ったことで素早くレスポンスを返したり、こみ入った話をすることも可能になったりと、とてもいいツールだと感じながら活用しています。
    境:コミュニケーションの敷居を下げるのは、本当に大事なことだと思います。一方で、守るべきものをしっかり守っていくことも求められますよね。
    平川:おっしゃる通りです。

    今、有用なクラウドサービスが次々に登場しています。それらの利用を制限するよりも、便利に活用していくことで、お客様に価値を届けることができると考えて推進していますが、それに伴って、会社の情報資産は境界型防御の外側に行ってしまいます。そこで、ゼロトラストに基づくセキュリティへの移行を進めているところです。


    情報システム課が大事にしているのは、ガチガチに縛るのではなく、「ガードレール」のようなセキュリティを作ることです。崖から落ちないように守りつつ、でもガードレールの内側であればどんなスピードで、どんな進み方をしてもいいですよと言える環境を作りたいと思っています。ユーザーの自由な発想を大切にしたいですし、それを見るのをとても楽しみにしています。

    ちょうどいい塩梅で安全・安心を守る、サウナとセキュリティの共通点

    fig-re_ps2株式会社楽天地オアシス 楽天地スパ 支配人 柘植光男氏

     

    遠藤:柘植さんは、サウナ業界での豊富な実務経験をお持ちでいらっしゃいますよね?
    柘植:自分自身サウナ好きだったことに加え、お客様に喜んでいただけることを原動力に、かれこれ25年ほど携わってきました。東京楽天地グループでは、千葉県にある「法典の湯」というスーパー銭湯の立ち上げから参加し、その後、楽天地スパにやってきました。

    第三次サウナブームでは異業種からの参入も相次いでおり、私たちには思いつかないような新しいサウナや店舗も増えており、非常に興味深いなと思っています。楽天地スパとしては、今のお客様に合った新たなことにも挑戦し、最後は「やっぱり、楽天地スパさんはいいよね」とお客様に言ってもらえる存在になりたいと考え、日々サービスを提供しています。
    遠藤:来店いただいたお客様がリラックスでき、かつ安全・安心に楽しめる環境を提供する為に、楽天地スパさんではどのような活動をされていらっしゃいますか?
    柘植:まず貴重品の取り扱いです。財布をはじめとする貴重品は貴重品ボックスに入れ、鍵をかけていただくことにしていますが、そもそもサウナは気持ちも体もリラックスする場所というのもあって、中には鍵を閉め忘れたり、休憩室に携帯電話を置きっぱなしにされたりするお客様もいます。ですので、最低でも一時間に一回定期的に見回りを行い、置き忘れた貴重品があればお客様にお声がけしたり、フロントで一時預かったりといった対応をしています。

    また、安全・安心という面で注意が必要なのはやはり体調不良です。もし倒れて頭を打ち付けてしまったりすると、大変なことになりかねません。見回りでも店内を注意深く見て回るようにしています。

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    遠藤:利用するお客様側からしても、そうやって見守られていることを意識せずに利用できるのが一番良い形だなと感じました。しっかりメンテナンスを行いつつ気配りをしていただくことで、柘植さんを含めたスタッフの皆様が作ってくれたセーフティネットの中で、我々サウナーは何も気にすることなくサウナを楽しめているのだとあらためて感じました。

    もしもセキュリティをガチガチに固めるサウナがあると想像すると、入店時に身分証明書を示し、休憩室でも何度も本人確認を求められ、サウナの中にまで監視カメラがある・・・考えただけでもリラックスして娯楽を楽しめませんよね。過剰なセキュリティにならず、利用者が意識せず守られているという「ちょうど良さ」を目指す姿勢は、業種こそ違いますがお客様へサービス提供している事業者としてとても学びになりました。

    楽天地スパでは、これまでの何十年という運用の中で、定期的な見守りを通して安心を提供するという今のちょうどいいバランスに落ち着いたのでしょうか?
    柘植:そうですね。やり過ぎると、過剰なサービスになってしまう可能性があります。
    境:平川さんがおっしゃっていたとおり、ガチガチに締め付けすぎると利便性が損なわれ、新しいアイデアも出てこなくなってしまいます。ちょうどいい塩梅で守るという部分が、サウナとセキュリティに共通すると感じました。

    もう一つ興味深いのが、従業員教育に力を入れ、ロウリュ&アウフグースを行う熱波師(ねっぱし)さん(iii)の育成を内製化していることですね。
    柘植:はい。新しい従業員が入社した際には、マニュアルを渡して読んでいただくだけでなく、担当部署の先輩と一緒に働きながら、館内やサウナ室の清掃、温度や湿度の管理などについてOJTで学ぶようにしています。

    また、楽天地スパの大きな売りが、1日に15回実施しているロウリュです。これも、未経験者には何をどうすればいいかわかりませんから、OJTでアロマ水の選び方やお客様とのコミュニケーションの仕方も含めて教えています。世の中にはオートロウリュがあったり、外部の熱波師さんをお呼びしてイベントをしたりすることもありますが、人の手でやるロウリュを続けていくために熱波師を自分たちで育てています。
    遠藤:熱波師さんを自社で育てているからこそ、日々多くのロウリュ&アウフグースをお客様に提供できている。これこそが楽天地スパさんの強みになっていると思います。

    オートロウリュも良いのですが、やはり人の手を介するからこそ得られる感動と満足感が、アウフグースにはあります。セキュリティも同じで、いくらAIで機械的に解析しても、自組織にとっていいのか、悪いのかの判断はやはり人が下すしかありません。しんがりは「人」というのも、セキュリティとサウナとの共通点なのかもしれませんね。
    境:楽天地スパの従業員の皆さんが定期的に見回るとともに、お客様側でも「具合の悪そうな人がいるよ」「騒いでいる人たちがいるよ」と気付いてもらい、スタッフが見に行くこともあるそうですね。お客様自身に気付いてもらうことでしっかり運用を回していくという点も、セキュリティと通じるところがあると思いました。

    たとえば、われわれはNetskopeなどのソリューションを提供してクラウドの利用状況を可視化していますが、ある日急に利用料金が異常な速度で増え始めた、といった事態は、お客様自身でなければ気づけません。我々プロフェッショナルが見守るだけでなく、お客様側にもご確認いただくことで、よりよい環境を作っていくことができるのだなと思いました。

    創造的に考える時間を作り出すITとサウナの役割

    fig-4227

    平川:会社の情報資産を守るという目的だけならば、ガチガチに縛ってしまうことがおそらく一番統制が取りやすいでしょう。けれど、サウナのお話からよく分かるとおり、ガチガチに縛ってしまうとお客様の満足度が下がってしまいます。かといって、お客様が倒れてしまうような事態は絶対に避けなければいけません。

    ではいったいどこで、どのような統制を取ればいいのかが課題になります。サウナの場合は、遠藤さんと柘植さんのおっしゃるように、人の目を生かすことで、お客様に楽しんでいただきながらしっかりと安全を担保しています。これは一例で、組織として何を守り、お客様にどんな価値を提供したいのかによってセキュリティのさじ加減は大きく変わってきますし、それこそが、事業会社の中でセキュリティに取り組む意義なんだろうなと思いました。

    私は、今の会社は成長段階にあると思っています。外部の人とどんどんコミュニケーションして関わり合うことで高い付加価値を生み出していく時期であり、そのため、Netskopeをはじめとするいわゆるセキュリティサービスは崖から落ちない程度というスタンスで運用し、皆さんに創意工夫をしながら速いスピードで走ってもらいたいと思っています。

    ただ、自分たちではちょうどいいと思っていても、もしかしたら見落としているところがあるかもしれません。最新の情報収集にまで時間を割けないこともあります。そういった部分ではぜひ、プロフェッショナルであるNRIセキュア様の知恵を借りながら、崖から落ちてしまわないラインを作れていければと思います。(iv)

     

    fig-4242

    境:取引先によっては、法規制や業界ルールを踏まえた対応が求められるフェーズもあります。そういった部分も押さえながら、速いスピードで走るためのガードレール整備をお手伝いしていければと思います。

    いろいろなお客様を見ていますと、クラウドを導入することでコミュニケーションのハードルが下がって情報共有が楽しくなり、意思決定のスピードが上がっていくというように、文化そのものが変化していくことが珍しくありません。我々は、セキュリティの総合窓口としてそこをしっかり下支えする力になれればと考えています。
    遠藤:おそらく次の中期経営計画の中には、AIといったキーワードも盛り込まれていくかと思います。AIで単に自動化するだけでなく、AIをどう使って業務を革新していくかという部分を、人の部分も含めてお手伝いできればうれしいですね。また、中期経営計画のフェーズごとに、「今やるべきちょうど良さ」を踏まえたセキュリティ対策の検討もお手伝いできると思います。

    サウナに関して言うと、今の忙しい日本人にとって、何か新しい企画を創造的に考える時間も必要だと思いながら、なかなか確保することができません。その点サウナでは、強制的にデジタルデトックスできる環境であり、しかも強烈な熱さに身をさらすことで脳の中の無駄なものが引き算され、その後の水風呂を経由し、いわゆる「ととのう(v)」状態に至ります。そのプロセスの中でアイデアが生まれることもあります。そういう時間を作るためにも、ITを活用して不要な仕事を減らし、価値創造の時間に振り向けていくかがポイントだと思います。
    柘植:サウナの入り方が多様化している今、「行くぞ」と意気込むのではなく、「ちょっと行ってみようかな」とふらっと立ち寄るくらいの気持ちで来ていただければと思います。ワーキングスペースも用意していますので、軽く仕事をしてから気分転換していただき、また次のステップに進んでいただくこともできると思います。
    平川:ITやセキュリティ領域で働く方は、常にシステムトラブルやサイバーインシデントのリスクにさらされ、時にはストレスのかかるイレギュラーな業務を強いられています。そんなストレスを短時間で効果的に解消し、業務に戻っていくために、サウナはとても有効に使えると思います。楽天地スパはもちろん、他にもさまざまな温浴施設がありますから、ぜひビジネスの頭の切り替えでも、もちろん娯楽でも、ご利用いただければと思います。

    fig-4289

     

    (i) ロウリュ:フィンランド発祥のサウナ入浴法の一つ。熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させることにより、発汗をうながす効果がある。
    (ii)アウフグース:ドイツ発祥の入浴方法で、ロウリュでできた蒸気をタオルなどであおぎ、入浴者に熱波を送ること。
    (iii) 熱波師:サウナルームでロウリュの際に、タオルなどを使って熱せられた空気をお客様に送る専門のスタッフ。人によってさまざまなスタイルがある。
    (iv) 株式会社東京楽天地様Netskope導入事例
    (v) ととのう:心身ともに深いリラックス状態になること。