EN

NRIセキュア ブログ

自動運転技術とサイバーセキュリティリスク|SDV時代に必要な対策とは?

目次

    自動運転技術の発展に伴うサイバーセキュリティの重要性

     

    自動車のソフトウェア化と自動運転技術の発展

    現在、自動運転車両や電気自動車の普及、それらに伴う新たなサービスの展開などにより自動車のモビリティサービスの充実が進んでいます。それに伴って注目されている技術がSDV(Software-Defined Vehicle)です。

     

    SDVは従来のハードウェアをベースとした車両開発から、ソフトウェアを中心とした車両開発へとシフトすることで、車の機能や性能を容易に追加・アップデート可能にする開発コンセプトです。SDVの実現により、スマートフォンアプリのように自由にサービス・機能を追加およびアップデートできるようになり、機能開発のためのプラットフォームが公開されることで、サードパーティ企業が車両開発に容易に参画できるようになると予想されます。

     

    2024年2月には、Tesla社が「スマートサモン」と呼ばれる、呼び出したユーザーのもとへ自動で走行する機能をソフトウェアアップデートで追加しました。今後はこのような機能を追加するための開発プラットフォームが外部に公開されることにより、車両開発はよりソフトウェア依存型に変わると考えられます。車内エンターテイメントや遠隔からのメンテナンスがより拡充するなど、様々な新しいサービスが生まれ、今後自動運転を基盤とした新しいビジネスモデルやサービスが次々に展開されることが期待されています。

     

    Tesla社の例のように、自動運転技術についても例外ではありません。自動運転技術におけるSDVの活用例として、自動運転機能の追加の他、車両走行データの収集によるユーザーごとの走行性能のカスタマイズや、自動運転制御におけるAI活用のための学習データの収集など、多岐にわたると考えられます。

     

    自動運転を活用したサービス・機能の実現にあたって、切り離すことができない重要な要素がサイバーセキュリティです。自動運転はドライバーの代わりに車両を運転する技術であることから、車両の基本機能として重要な安全性に直結する技術であると言えます。

     

    サイバー攻撃による事故の被害は、車両に搭乗する人のみでなく、道路上の歩行者や周囲のインフラ基盤など広範囲に及ぶと考えられます。そのため、自動運転を活用したサービス・機能の実現には慎重にならざるを得ないでしょう。

     

    また、実際に事故が発生した際に、不安感や不信感など社会に与える影響も考慮する必要があります。このような背景から、サイバーセキュリティへの対応も、自動運転技術の開発および発展とともに考えていく必要があります。

     

    本記事においては、「国内および国外の取り組み」「自動運転技術の実事例」についての動向を紹介し、自動運転技術、および自動運転を活用したサービス・機能に不可欠であるサイバーセキュリティのポイントについて整理します。

    国内および国外の自動運転に対する取り組み

    国内外では多くの自動運転技術の実現を目指したプロジェクトがあり、現在に至るまで様々な活動が続けられてきました。それらの活動の概要と現状、セキュリティに関する取り組みについて紹介します。

    国内の動向

    既に国内においては、自動運転の「レベル4」[i]を見据えた道路交通法の改正がなされ、2023年4月1日より施行されました[ii]。このような法整備が着々と進む中、レベル4を搭載した車両はまだ一般には発売されておらず、実現に至っていません。そのため、自動運転技術の社会実現が国内における大きな目標となっています。政府は自動運転技術の早期実現を目指し、様々な取り組みを推進しています。以下に、政府が主導する代表的なプロジェクトを紹介します。

    SIP-adus/SIP自動運転

    SIP-adusは内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の活動のうち、自動運転の社会実現を推進するための取り組みです(略称SIP-adus; Automated Driving for Universal Services)[iii]。2014年に開始され、自動運転の基盤技術の研究開発から、実証実験を通じた実用化に至るまで、幅広い分野での取り組みを行っています。2025年度までにレベル4自動運転の実現を目指しており、現在も引き続きプロジェクトは進められています。同プロジェクトにおけるサイバーセキュリティに関する研究は日本とドイツが主導して行われ、車載IDSやコネクティッドカーにおける脅威インテリジェンスに関して検討が進められてきました。

    【RoAD to the L4】自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト

    RoAD to the L4は、SIP-adusのプログラムの一環として進められているプロジェクトであり、日本における自動運転レベル4を達成するための自動運転技術の研究開発と社会実装を目的としています[iv]

     

    プロジェクトの特長として、大きく4つのテーマを掲げ活動をしていることが挙げられます。

    • テーマ1「遠隔監視のみ(レベル4)自動運転 サービスの実現に向けた取り組み」
      …限定エリアにおいて、低速車両や、遠隔監視のみでの自動運転サービスの実現を目指す
    • テーマ2「L4 MaaS 対象エリア、車両の拡大、事業性向上の取り組み」
      …L4を適用できるエリアや、多様な車両による自動運転サービスを想定した事業可能性の拡大を目指す
    • テーマ3「高速道路における隊列走行を含む高性能トラックの実用化に向けた取り組み」
      …後続車無人隊列走行実証の成果を活用しつつ、自動運転トラックの開発、および道路情報などを活用した運行管理システムの整備を目指す
    • テーマ4「混在空間でレベル4実現のためのインフラ協調や車々間・歩車間通信連携などの取り組み」
      …地域の特性に応じた協調型システムの導入を促進し、レベル3以下や自動運転以外の移動手段・モビリティでの活用を視野に入れてビジネスやデータ連携スキームの検討を目指す

     

    また、上記以外にも、人材育成や自治体・事業者向けの社会実装に向けた手引き[v]の作成と公開など幅広い取り組みを行っており、国内における自動運転の社会実現に尽力しています。

    国外の動向

    日本以外においても同様に、各国政府による自動運転に関する取り組みは多くみられます。米国、欧州、中国、最後に国連の取り組みとしてUN-R157について簡単に紹介します。

    米国における取り組み

    AV(Automated Vehicle) 4.0

    AV 4.0は、米国における自動運転車に関する国家戦略の一部であり、自動運転技術の発展と安全な導入を促進するためのガイドラインを提供しており、自動運転車の研究開発や商業化をサポートしつつ、安全性、セキュリティ、プライバシーの確保についても取り組んでいます[vi]

    AV(Automated Vehicle) Test Initiative

    AV Test Initiativeは、米国運輸省(U.S. Department of Transportation)および国家道路交通安全局(NHTSA; National Highway Traffic Safety Administration)が推進する取り組みで、AV 4.0の一部に位置づけられています。特に公道での自動運転車両のテストを促進し、その安全性を向上させるためのプラットフォームを提供しています。企業や研究機関は、自動運転車両のテスト結果や情報を共有し、安全性の高いシステムの開発を促進しています。プラットフォームでは、実際に実証実験が行われている場所を確認することができます[vii]

    欧州における取り組み

    CCAM(Cooperative, connected and automated mobility)

    CCAMは、欧州連合とその加盟国が推進する取り組みであり、コネクティッドカーおよび自動運転技術を通じて、道路交通の安全性や持続可能性を向上させることを目的としています[viii]。主な特長として、以下が挙げられます。

    1. 自動運転技術以外との協調 … 車々間通信、およびインフラとの連携に焦点を当てています
    2. データ共有と標準化 … EU内での連携、およびデータ標準化を推進し、共有のプラットフォームで協力できる環境を目指しています
    3. テストと実証実験 … 欧州各地で自動運転の実証実験を行い、実現を推進しています

    中国における取り組み

    スマートカーイノベーション戦略

    スマートカーイノベーション戦略は、中国政府による取り組みであり、自動運転技術を戦略的新興産業として位置づけ、2025年までに基本的枠組みを構築し、自動運転の商用化を目指しています[ix][x]。この戦略には、自動運転技術の開発、インフラの整備、標準化の推進などが含まれています。さらに、同戦略では実証実験についても活動を推進しており、閉鎖試験区域で実験を行った後に公道でのテストが可能になると定められています[x]

    国連の取り組み

    国連規則UN-R157の制定

    UN-R(Regulation) 157 “Automated Lane Keeping Systems (ALKS)”は、自動運転車両の安全要件に関する国連規則です[xi]。自動運転車両の商用化にあたって、法的な枠組みを提供するために策定された法規であり、自動運転システムの開発と発展において統一された安全基準を提供することを目指しています。特長として以下が挙げられます。

    1. 自動運転レベル3~5を対象とした要件を定めている
    2. 車両が予測可能かつ安全な動作をするための安全性を確保すること
    3. サイバーセキュリティ、およびソフトウェアアップデートの安全を確保すること
    4. 事故や故障発生時に必要なデータを保存すること
    5. 車両の安全性やシステム動作について透明性を確保するために、必要な情報を開示すること

     

    UN-R157では自動運転システムにおけるサイバーセキュリティの確保を要求しており、自動運転システムの開発おけるサイバーセキュリティの考慮は法規の面でも必須となっています。UN-R157における要件としては、車両開発・運用全体のサイバーセキュリティ管理システムの要件を定めたUN-R155 “Cyber security and cyber security management system”に従うことが示されています。そのため、自動運転システムの開発においても、実際のサービスや機能の特性に応じて、セキュリティおよび安全面でのリスクを網羅的に洗い出し、総合的に対策を検討する必要があります。

    自動運転技術の実事例

    国内外における自動運転の実現に向けた取り組みによって、全世界で様々な民間企業によって自動運転の実現に向けた実証実験や、一部サービスが既に開始しています。自動運転技術の分類を整理した上で、注目すべき具体的な自動運転の実事例について紹介します。

    自動運転技術を活用したサービス・機能の分類

    自動運転技術を活用したサービス・機能には様々なものがあり、その規模や目的によってそれぞれ大きく異なります。そこで、まずその分類について改めて整理します。

    自動運転技術を活用したサービス・機能の分類・整理と大まかな社会実現に向けた状態

    01

     

    一般に「自動運転」と聞かれた際は、マイカーに搭載される自動運転技術を想像するかもしれませんが、人以外の輸送に関する技術も含めると、既に多くの技術の開発が進められており、いずれも様々な実証実験を通して実現方法の検討が進められています。次にそれらの実事例について紹介します。

    ロボットタクシー

    現在自動運転技術の活用が最も注目されている分野は「ロボットタクシー」です。既に中国や北米においてはサービスの提供が開始しています。

     

    北米では、Waymo社により2023年8月にカリフォルニア州サンフランシスコにて完全無人のロボットタクシー「Waymo One」の運行が既に開始されています。サンフランシスコの市内全域で利用可能です[xii]。Jaguar社のEV車両であるI-PACEを利用しており、車両に搭載された各センサーを用いて車両の周囲を認識し、自動で走行することが可能です。また運賃はタクシーと比較してもほぼ同等の料金です。

     

    また、同じく北米にて、2024年10月10日にTesla社によるロボットタクシー用の自動運転車両「Cybercab」を発表しました。Waymo社のロボットタクシーとは異なり、Cybercabを購入したユーザーは、Tesla社の独自アプリを介して、Teslaの車両オーナーが自身の車両をロボットタクシーとして運行させることで収益を得ることができる仕組みとなる見込みです。サービスは北米主要都市で開始されることがアナウンスされています[xiii]

     

    中国では大手IT企業である「百度(バイドゥ)」が「Apollo Go」というロボットタクシーのサービスを2022年8月に武漢市から開始し、これまで順次拡大を進めてきました[xiv]。Apollo Moonという自動運転専用の車両を用いてサービスを展開しており、これまでのタクシーと比較するとその料金は手ごろな料金で利用可能となっています。

     

    日本国内においても同様の動きが見られます。自動運転技術開発のリーディングカンパニーであるTier IV社は、東京都内の限定区域におけるロボットタクシーの実証実験を2024年11月から開始することをアナウンスしています[xv]。大手完成車メーカーである日産自動車株式会社は、大手IT企業であるDeNAと共同で「Easy Ride」というロボットタクシーサービスの開発を進めており、2025年~2026年度のサービス展開を目指しています[xvi]

    自動運転バス・トラック

    ロボットタクシーにて取り上げたTier IV社は、自動運転バスについても取り組んでいます。2024年3月からBOLDLY株式会社、アイサンテクノロジー株式会社、損害保険ジャパン株式会社とTier IV社は合同で石川県小松市の駅・空港間において自動運転バスを運行しており、今年9月に利用者1万人を達成しています[xvii]。同自動運転バスは、駅・空港間の片道4.4km間を自動で走行し、走行運行中は遠隔からの監視を行っています。

     

    同様の自動運転バスに関する取り組みとして、鹿島とBOLDLY株式会社は羽田空港近くの商業施設である「羽田イノベーションシティ」にて無人での自動運転バスの運行を2024年7月より開始しています[xviii]。既に複数回の検証を実施しており、自動運転レベル4での運航許可を得ており、民間企業主体の事業として国内初の事例となります。

     

    モノの輸送としては、トラックの自動運転が挙げられます。近年輸送業界においては人手不足が深刻な問題となっており、いわゆる物流業界における社会問題である「2024年問題」の解決が急務です。そこで注目されているのがトラックの自動運転技術です。

     

    国土交通省では、高速道路におけるトラックの自動運転に関する実証実験の参加者を募集しており、新東名高速道路の限定区間において深夜時間帯に自動運転車優先レーンを設定することをアナウンスしています[xix]。三井物産株式会社によって設立された株式会社T2は、同実験に参画することを発表しています[xx]

     

    自動運転トラックの活用は高速道路などの特定領域において、車両や路側器と協調し、可能な限りドライバーの負荷を減らすことを目標として様々な実験がこれまで行われてきました。低速かつ限定区域で運行される自動運転バスとは異なり、物資輸送のための長距離移動が求められることから、自動運転レベル4の自動運転トラックの実現にあたってはまだ多くの課題が残っています。

    自動バレーパーキング(AVPS)

    駐車場区画内の自動運転レベル4の実現に向けて注目されている「AVPS (Automated Valet Parking System)」は、もともと国外でよくみられるホテルスタッフがドライバーに代わり駐車場区画に駐車するバレーパーキングサービスを自動化するための技術であり、ドライバーが特定の箇所で降車した後、自動で車両を駐車場のスペースに駐車することができます。

     

    2023年7月に国際規格として発行されたISO 23374-1[xxi]は、AVPSを具体的に実装するにあたっての実装方法などを規格として定めており、下記3種類のTypeが定義されています。AVPSに対応した駐車場区画のサービス提供者および自動車の機能開発者はいずれかのTypeを選択し、開発を進めることになります。

    • Type1: 自動車主体で自動駐車を行う
    • Type2: バックエンドシステム主体で自動駐車を行う
    • Type3: 自動車とバックエンドシステムが協調して自動駐車を行う

    さらに、同規格をより具体的に補足する文書がドイツ自動車工業会(VDA)より2023年5月に発行されており、実現に向けて着実に技術開発が進められています[xxii]。同補足文書では、機能安全やサイバーセキュリティの確保についても言及されています。しかしながら、駐車場区画の運営者との密な連携や、決済に関する仕組みを導入する必要があるなど、社会実装に向けては課題が多く残っています。

    自動運転の動向に伴うサイバーセキュリティのポイント

    ここまで様々な自動運転に関する動向を紹介してきました。最後にそれらの動向に伴うサイバーセキュリティのポイントについて整理します。

    自動運転に対するサイバーセキュリティの法規制のポイント

    国内国外ともに、各国の政府は自動運転技術の実現に向け、様々な取り組みやプロジェクトを推進してきました。自動運転車両の普及にあたって、特に政府が主導して進めてきた取り組みが法律やガイドラインの整備です。自動運転車両が国際市場で販売される場合、各国で統一された基準を設ける必要があります。

     

    サイバーセキュリティに関する対応は、技術開発段階から運用後まで一貫して考慮する必要があります。そのための法規要件が、国連規則の一つであるUN-R155 ” Cyber security and cyber security management system”です。UN-R155は自動車のサイバーセキュリティに関する体制とプロセスを定めており、各国がUN-R155に基づいた法律を整備することで、同じレベルのサイバーセキュリティを確保することが可能となります。

     

    自動運転車両の安全要件を定めた国連規則であるUN-R157 “Automated Lane Keeping Systems (ALKS)”では、UN-R155に従ったサイバーセキュリティ対策を行うことが定められています。よって、各自動車メーカーは、最低限ベースラインとして法規に定められているサイバーセキュリティ要件を遵守し、技術開発段階から運用後のセキュリティを確保することで、自動運転車両を国際市場で販売することが可能となります。

     

    また、自動運転車両の運用を見据え、自動運転サービス事業者に対するベストプラクティスやガイドラインを作成するといった取り組みも期待されます。例えば、既に紹介した通り国内では自治体・事業体向けのレベル4自動運転技術の社会実装の手引きが公開されています。

     

    このように政府が率先してガイドラインを発行することで、民間企業が安心して自動運転を活用したサービスの開発および展開を促進することに繋がります。

     

    既に日本を含む世界各国では自動運転を見据え新たな法律の制定や、改正などが随時行われています。以下に、主な地域における自動車におけるサイバーセキュリティ関連の法律、標準、ガイドラインについてまとめました。

    自動運転のサイバーセキュリティに関する法律・標準・ガイドライン自動運転のサイバーセキュリティに関する法律・標準・ガイドライン

    国連法規であるUN-R157およびUN-R155の加盟国はそれらの法規に従い、国内の法律を整備しています。加盟国ではない北米では、連邦全体で有効となる法律は成立しておらず、日本など海外に拠点を持つ企業は独自にUN-R155の要件を遵守するなど、法整備の観点では遅れている状況です。

     

    しかしながら、国家道路交通安全局(NHTSA)が先行してベストプラクティスを発行・改訂しており、米国政府も自動車のサイバーセキュリティを重要視しているのがわかります。同じく加盟国ではない中国では、これまでUN-R155に相当する法規や規格がなかったものの、新たにUN-R155に相当するGB文書が公開され、施行を急いでいる状況です。

     

    以上で述べたように、各国の動向には自動車メーカーやサプライヤー企業に車両のサイバーセキュリティを確保することを促すことで、ドライバーだけでなく歩行者や周囲の人々の安全を守るための土台を醸成することが求められていると言えます。

     

    さらに多くの自動車メーカーは海外市場でも車両を販売しています。そのため、自動車メーカーやサプライヤー企業の国外での競争力の維持、シェアの拡大を支援するため、政府は率先して国連法規に基づいた早期の法整備や認証制度の確立などを推進してきました。

     

    また、民間企業が安心してサービスを展開できるよう、積極的にベストプラクティスやガイドラインを作成し、普及を促すことも重要です。自動運転の進展とともに、製品ライフサイクル全体を見据えた持続的なセキュリティ対応が、自動運転車両の普及と社会的信頼を支える鍵となります。

    自動運転技術を活用したサービス・機能におけるサイバーセキュリティのポイント

    注目すべき自動運転の実事例として、ロボットタクシー、自動運転バス・トラック、自動バレーパーキング(AVPS)を紹介しました。そうした自動運転を活用したサービスの展開において、ベースラインとして法規に定められているサイバーセキュリティ要件を遵守した上で、さらにサービス・機能ごとの脅威やリスクを特定し、対応することが必須となります。それぞれ簡易アーキテクチャを用いて、サイバー攻撃への対策例をまとめました。

    ロボットタクシーの簡易アーキテクチャとサイバーセキュリティ対策例03

    ロボットタクシーの場合、人の移動に利用されるため車両走行に関する機能に対してサイバー攻撃が発生した場合、利用者へ重大な影響を与える可能性があります。

     

    例えば、目的地の改ざんにより乗客を意図しない場所へ連れ去ることや、車両を強制的にロックしてハイジャックすることが考えられます。ロボットタクシーは、自動車メーカーではなく、サードパーティ企業によって運行されると考えられるため、SDVを活用してサードパーティに対する車載API(Application Programming Interface)が提供される可能性があります。

     

    ロボットタクシーでは、利用者のスマートフォンや車内に設置されているタブレットから目的地を設定し、タクシー会社のクラウドシステムを介し、車載APIを用いてロボットタクシー車両へと目的地が登録されることになるでしょう。

     

    このようなシステムにおいて想定されるサイバー攻撃の経路・手法としては、攻撃者によってサードパーティと車両の通信経路や、車載APIの不正利用や通信のなりすましなどが考えられます。そのため、自動車メーカーは車載APIの通信暗号化や強固な認証、権限に応じたアクセス制御など様々な対策を実装した上でサードパーティに機能を提供することが求められます。

     

    また、サードパーティに対してもセキュリティ・プライバシーを確保するための要件を設け、審査基準を満たす企業が参入できる制度を設置するなど、サプライチェーンの観点での対策も重要です。さらにサードパーティはスマートフォンやタブレットとクラウドシステム間の通信経路の暗号化はもちろんのこと、利用者のなりすましを防ぐ対策や、クラウドシステムへの侵入を防ぐためのアクセス制御など、一般的なITセキュリティ対策を実装することが求められます。

    AVPSの簡易アーキテクチャとサイバーセキュリティ対策例04

    自動バレーパーキングシステム(AVPS)においても、ロボットタクシーと同様、利用者や車両周囲環境へ重大な影響を与える可能性があります。自動で駐車場内を走行するため、駐車場内の区画への走行経路が改ざんされることなどにより、駐車場内の歩行者や、搭乗者が事故に巻き込まれる恐れがあります。

     

    AVPSでは、自動運転車両と駐車場のサーバーが連携し、互いに協調して自動駐車を行います。駐車場のサーバーは、駐車場を運営するサードパーティ企業によって運用されることが想定されるため、駐車場サーバーおよび車両は相互に正規であることを認証し合うための仕組みが必要です。

     

    AVPS対応車両においては、駐車場サーバーから自動車に対して走行命令が送られる場合、その内容を検証し、不正な命令は棄却することが求められます。また、駐車場サーバーは駐車場区画付近に設置されることから、物理的な侵入を防ぐことも重要です。

     

    AVPSでは、既にISO規格が発表されているものの、その中でサイバー攻撃の例や、その具体的な対策については記載されていません。そのため、対策の実装は各機器やユニット、自動車メーカーおよびサードパーティ企業の開発者に委ねられているのが現状です。

    まとめと今後の展望

    本記事で取り上げた動向や取り組みをまとめると以下の通りです(※直近の代表事例について特に取り上げています)。

    自動運転に関する動向のまとめ(代表事例)自動運転に関する動向のまとめ(代表事例)

    自動運転に関する取り組みは、日本国内にとどまらず、各国において既に官民連携の実証実験の段階へとシフトしています。一部は既にサービス展開が開始しているものの、多くは実証実験段階にあり、セキュリティに関連する検討や仕組みづくりは十分とは言えません。

     

    自動運転を活用したサービスには、車両自体だけでなく、サーバーや路側器など様々な機器とつながり、協調することが想定されるため、こうした複雑な環境に対応したサイバーセキュリティ対策が急務となっています。

     

    また、自動運転のみではなく、車両ユーザーの体験を向上するための「車とつながるサービス」についても技術革新が進んでいます。冒頭で述べたTesla社の「スマートサモン」機能が追加された事例のように、まるでスマートフォンのように車がアップデートされたり、ユーザーごとの機能のカスタマイズの幅が大幅に広がるなど、今後も技術革新が続く見込みです。

     

    そこで重要になる技術がSDVであり、自動運転車両も含めて、SDVを中心に様々なサービスの展開が予想されます。今後も、SDV×自動運転に関する技術動向、および関連するサイバーセキュリティの動向には注視が必要です。

     

    NDIASでは、日本だけに限らず各地域におけるセキュリティ動向や技術の調査、セキュリティ対応のコンサルティング、車載ECUのセキュリティ評価など幅広く支援しています。自動運転や関連技術・サービスの動向にも注目しており、SDVなど関連するテーマでセミナーも開催しております。

     

    [i] レベル4自動運転:特定の条件下において、人間の介入なしで車両が自律的に運行可能な状態

     

    [ii] 特定自動運行に係る許可制度の創設について
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001485116.pdf

     

    [iii] SIPとは
    https://www.sip-adus.go.jp/sip/

     

    [iv] RoAD to the L4とは
    https://www.road-to-the-l4.go.jp/about/

     

    [v] 自治体・事業者向けの社会実装に向けた手引き
    https://www.road-to-the-l4.go.jp/activity/guideline/

    [vi] Automated Vehicles 4.0
    https://www.transportation.gov/av/4

     

    [vii] AV TEST Initiative

    https://www.nhtsa.gov/automated-vehicle-test-tracking-tool

     

    [viii] Cooperative, connected and automated mobility (CCAM)
    https://transport.ec.europa.eu/transport-themes/smart-mobility/cooperative-connected-and-automated-mobility-ccam_en

     

    [ix] 构建中国标准智能汽车体系 实现汽车强国伟大目标https://www.ndrc.gov.cn/fggz/cyfz/zcyfz/202002/t20200228_1221686.html

     

    [x] 中国の自動運転・コネクティッドカーの関連政策
    https://www.nedo.go.jp/library/ZZAT09_100017.html

     

    [xi] UN Regulation No. 157 - Automated Lane Keeping Systems (ALKS)
    https://unece.org/transport/documents/2021/03/standards/un-regulation-no-157-automated-lane-keeping-systems-alks

     

    [xii] Waymo One
    https://waymo.com/waymo-one/

     

    [xiii] We Robot
    https://www.tesla.com/ja_jp/we-robot

     

    [xiv] Baidu announces first quarter 2022 results
    https://ir.baidu.com/news-releases/news-release-details/baidu-announces-first-quarter-2022-results

     

    [xv] 東京都内の限定区画でロボットタクシーによるサービス実証を開始
    https://tier4.jp/media/detail/?sys_id=3zc5Jf8KEJ9fJOqewaAiUM

     

    [xvi] Easy Ride
    https://www.nissan-global.com/JP/INNOVATION/TECHNOLOGY/ARCHIVE/EASY_RIDE/

     

    [xvii] 石川県小松市、自動運転バスの利用者数1万人を達成 ~安心・安全・安定した公共交通へ。レベル4に向け取組を推進~
    https://tier4.jp/media/detail/?sys_id=4PwRiSX41DfLRBzJmWU6Ul&category=NEWS

     

    [xviii] 民間初、自動運転レベル4の運行許可を取得
    https://www.kajima.co.jp/news/press/202406/26a1-j.htm

     

    [xix] 高速道路における路車協調実証実験について募集
    https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001820.html

     

    [xx] 国土交通省「高速道路における路車協調による自動運転トラックの実証実験」に参加します
    https://t2.auto/news/0920.pdf

     

    [xxi] ISO23374-1:2023
    https://www.iso.org/standard/78420.html

     

    [xxii] Automated Valet Parking Systems
    https://www.vda.de/en/news/publications/publication/automated-valet-parking-systems