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DXの本質はツール導入よりも業務変革 |AIコンタクトセンターを実現した東電EPが語る変革推進のポイント

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    東京電力エナジーパートナー(以下、東電EP)は今、積極的にデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいます。その成果の一つが「AIコンタクトセンター」です。チャットを取り入れてサポート窓口のオムニチャネル化を図り、人とAIの力を組み合わせて、さまざまな問い合わせに効率的かつ適切に対応する仕組みです。

     

    AIコンタクトセンターはさまざまなクラウドサービスなしには実現できませんでした。そして、各クラウドサービスをポリシーに沿って適切に、セキュリティを保ちながら活用する手段としてNetskopeを採用しています。導入を支援したNRIセキュアの岸川孝明と境文也が、AIコンタクトセンターをどのように実現していったか、組織やプロセス面でどのような工夫を凝らしたのか、実体験してみなければわからないポイントを、東電EPのDX推進室の飯塚孝高氏に尋ねました。

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    異なる文化を取り入れながら、社内のコラボレーションを推進するDX推進室

    fig01東京電力エナジーパートナー株式会社 DX推進室 飯塚孝高 氏


    東電EPが取り組んでいる次世代コンタクトセンターは、DXの在り方を示す非常に素晴らしい例だと思います。御社には、AIコンタクトセンターのような新しいチャレンジをしやすい文化や風土があるのでしょうか?


    飯塚:DX推進室は社長直下にあり、15名程度の少数精鋭で全社、各部門の課題解決に取り組んでいます。DX推進室がハブとなって、ある部門で出てきた課題を他の部門に水平展開したり、部門間のコラボレーションを推進したりと、チャレンジしています。


    各部署から、「自分たちもクラウドサービスを使って業務をもっと便利にしたいけれど、どうしたらいいだろう?」といった相談を受けることも多いのでしょうか?


    飯塚:そうですね。今最も多いのはデータ活用に関するご相談です。これまでデータは部門ごとにサイロ化しており、活用も部門内に閉じていた部分がありました。今後はクラウドサービスも含め環境が整ってきたので、いろいろなコラボレーションしていきたいと考えています。

    具体的には、AIコンタクトセンターにチャットなど複数のチャネルから入ってくるお客さまのコメントをCX向上室で分析したり、さらには営業やマーケティング活動に活用したり…その逆もあり得るでしょう。そんなコラボレーションを通して、お客さまに満足していただけるサービスをどんどん、スピーディーに提供できると期待しています。


    岸川:こうした取り組みを進める上ではテクノロジーも重要ですが、ハブとなるDX推進室の存在も大きいですよね。


    飯塚:はい。全社の戦略を踏まえつつ、各部門に適切なアドバイスをしながらコラボレーションしていくことが重要だと考えています。


    DX推進室の雰囲気や働き方はどのようなものでしょうか。


    飯塚:私のように新卒で入社した人間は少数派です。他業種でデータサイエンスの実績のある方に加わっていただきながら、徐々に体制を拡大しています。いわゆる「電力マン」的なイメージとは異なる文化が加わることで、自分たちで最新の知見を調べながら挑戦してみようという雰囲気で、生き生きと進めています。


    岸川:外部から専門性を持った人材を招くと、それぞれ全く違った「当たり前」がぶつかり合って新しいものが生まれることになり、非常に面白そうですね。


    飯塚:はい、こうしたコラボレーションは非常に重要だと思っています。

    マルバツ表だけではわからないツールの善しあし、まずは実際に触ってみることが肝心

    fig02NRIセキュアテクノロジーズ株式会社 セキュリティコンサルタント 境文也


    組織間のコラボレーションを進めるに当たっては、ツール面での整備も進めたのでしょうか。どのように選定していったのですか?


    飯塚:個別のクラウドサービス導入による業務効率化は、情報システム部門に任せています。DX推進室は「こんなデータ活用ができていますよ」といった事例を共有するポータルサイトの整備などを通して知見を共有し、それを見ていろんな方がコラボレーションできる環境を整えていく方に力を入れています。時には失敗もありますが、うまくいったものがあれば型にしてIT部門に引き継ぎ、DX推進室はまた新しいことに取り組む、という感じですね。


    岸川:NRIセキュアにも似たところがあります。よりよいサービスにつなげるために、まずお客さまと一緒に評価をし、よいものだと判断すれば展開していきます。そのハブが境のいる部隊です。DXにおいてはまずはチャレンジしてみることが、ユーザー目線でも、サービスを提供するサービサー目線でも大事なポイントだと感じています。


    飯塚:そうですね。単純な機能のマルバツ表だけではわからないことはたくさんあります。実際に触って、試してみることが重要ですね。


    クラウドサービスの選定をはじめ、最新の情報収集ではどんなアンテナを張っているのですか?


    飯塚:新しいことに取り組むのですから、あえて、以前からお世話になっているつながりとは別のところから情報を収集するようにしています。でもやはり、最初のとっかかりはGoogleでの検索ですね。勢いがあるサービスならば、検索してみると「このサービスを使ってみた」といったブログ記事が出てきます。

    また、サービス提供者がしっかりしたAPIドキュメントなどを公開しているかも重視しています。仕様がクローズドで、こちらから要求しないと情報がわからないようではスピードが出せませんし、システム間の連携もやりづらいので、情報がオープンになっているかどうかもポイントですね。


    岸川:ユーザーが多いかどうか、コミュニティが活発かどうかもポイントになりそうですね。


    飯塚:はい。そういった理由からも、整ったマルバツ表を見ることはあまり無いんです。気になったサービスをピックアップし、実際に使ってみて、よければそのまま使うという形です。また、常に新しいサービスが出てくるので、よりよいものが出てきた時には乗り換えられるよう、密に結合しすぎないことも意識しています。


    岸川:製品選定の際に、あまりマルバツ表は参考にしないというのは面白いですね。


    飯塚:もちろん、最終的に経営層に説明する際には、自分たちが重視する評価軸をベースにして作りますよ。また、「データがきちんと暗号化されているか」といったセキュリティ面を含め、基本的な管理策もチェックしますが、その上での使い勝手は触ってみないとわからない部分が大きいと思っています。


    境:Netskopeに限らず、ツールでできることと実際にやりたいこととの間にはどうしてもギャップが生じると思います。たとえば「こういう種類の機密情報の漏洩を検知したい」と考えても、うまく定義しきれないこともあったかと思いますが、そこはどのように埋めていったのでしょうか。


    飯塚:システムだけですべてができるとは思っていません。システムと並行して人間系の運用も整備し、その両方でリスクを軽減することで対処していきました。もちろん一朝一夕にできることではなく、半年ほど時間をかけ、しっかり進めていきました。

    業務を変えることが大前提、現場に入り込みながら変革をともに推進

    fig03NRIセキュアテクノロジーズ株式会社 セキュリティコンサルタント 岸川孝明


    岸川:AIコンタクトセンターの構築は単なるクラウドサービスを導入するだけなく、業務自体も変えていく取り組みでした。このような業務改革を伴うケースで、関係者へ説明を行う際などに工夫している事柄はありますか?


    飯塚:AIコンタクトセンターの場合は、PoCの段階で私がコールセンターの現場に行き、オペレーターの皆さんの前で説明会を行いました。また、拡大段階ではオペレーション部門のキーマンにも参画してもらい、徐々にスキルトランスファーしながら進めていった経緯があります。

    具体的にはまずDX推進室で「こんなフローでやりましょう」というたたき台を考え、スモールな環境で実際にチャットベースのオペレーションを実施していきました。その中で、「スクリプトにはこんな絵文字を付けた方がいいんじゃないか」「敬語ではなく短いメッセージの方がいいんじゃないか」とさまざまなフィードバックをもらい、実験と評価を繰り返すところに力を入れていきました。


    境:ツールの導入だけで終わらせるのではなく、「こういう風に使いましょう」というところまで考え、深く入り込みながら進められたんですね。ちなみに、新たに現場に展開するときに、「使い方がなじまない」といった声や反発はありませんでしたか?


    飯塚:ありませんでしたね。コールセンター業務を委託しているオペレーターさんにチャットでの業務をアサインしてやっていただいたところ、むしろ「電話よりチャットの方がスムーズにできる」といった声もありました。クレーム対応なども、チャットの方が精神的に楽だそうです。

    グループ内でノウハウを共有しながら、「データの民主化」など次の課題にも挑戦

    fig04

    次に、今後の展望について伺えればと思います。AIコンタクトセンター自体も進化を続け、在宅勤務への対応などを計画されているそうですが、さらにその先に検討していることはありますか?


    飯塚:今、お客さまとの接点は無数にありますが、サービスごとにばらばらにお客さまIDを管理している状態です。このため、あるお客さまがわれわれのどのサービスをどのように利用しているかを網羅的に把握できていません。

    それを改めてさまざまな接点を統一し、あらゆる接点で同じようなユーザー体験を提供したいと考えています。業務改革推進室と一緒になって、IDを一本化し、お客さまの利便性を向上させるとともに、お客さまの声をくみ取ってサービス改善につなげていければと思います。


    部門ごとに分かれているIDを一つにまとめるということでしょうか?


    飯塚:それもありますが、電気やガスだけでなく、見守りサービスなどの新サービスも含めて一本化し、同じようなユーザー体験を提供していくイメージです。カスタマサポートもそうですね。IDを統合して活用することで、お客さまの行動を踏まえながら、より適切でスムーズなサポートが提供できると思います。


    岸川:そうなると、日常生活の中で東電EPさんのお名前を見かけ、生活を見直す機会も増えるのかなと思います。


    飯塚:まさに狙いはそこにあります。この先も選ばれ続けるサービスやユーザー体験につなげていければと思います。もう一つ、「データの民主化」についても構想を進めています。ユーザートレーニングも必要になるため足の長い話にはなりますが、いわゆるデータドリブン的な経営やサービス提供を見据えています。


    岸川:データの民主化は非常に重要な課題だと思います。昔はデータというものは、事業部や本部ごとに区切って持つものでしたが、電力以外にも多様なサービスを展開する中では、非常に重要なポイントですね。この場合もテクノロジー面での推進だけでなく、制度や組織作りも同時に進めていく必要がありますね。


    この先の取り組みにおいてセキュリティ面で懸念されているところは何かありますか?


    飯塚:今は、BigQueryなどで構築したデータ分析基盤を限られたユーザーで使っていますが、今後、データの民主化を進めていくとユーザーが増えてくるはずです。そんな中で、それぞれの設定がきちんとできているかどうかが課題になる可能性があると思っています。

    今の段階では、クラウド事業者自身が提供する監視機能を使って、不用意に公開されないようにしていますが、今後、利用者が増えたり、他のクラウドに拡大していったりすると手に負えない部分が出てくるかもしれません。


    岸川:データの民主化を進めていくと、セキュリティルールを理解しないまま誤って共有してしまったり、意図せず不正につながってしまったりする恐れも出てくる可能性がありますね。振る舞い検知や分析といった領域で課題が出てきた時にはお手伝いができると思います。

    もう一つお伺いしたいのですが、こうしたさまざまな取り組みを進めるに当たって、東電ホールディングスをはじめグループ間での情報共有や働きかけなどはあるのでしょうか?


    飯塚:ホールディングスや東電パワーグリッドの中にもそれぞれDX推進部門があり、DX部門間でのコミュニケーションは盛んです。 ホールディングスではDX人材育成に関する戦略を進めていますし、東電パワーグリッドはドローンなどを活用したプロジェクトがあります。

    一方我々はご紹介したとおり、クラウド環境を活用した業務変革を進めています。それぞれに特色があり、それぞれの成果を連携しあって参考にしています。先日も、データ民主化に関連して東電パワーグリッドにレクチャーを行いました。法制度上、システム的に分離しなければいけないところもあり、すべてをそのまま共有するのは難しいのですが、やり方をアドバイスするといった形で連携を進めています。


    「推進室」という名前ですが、いずれトランスフォーメーションが完了し、事業を推進しきったら、次に挑戦してみたいことはありますか?


    飯塚:これまでカスタマサポートのオペレーション分野でDXを推進してきましたが、これはまだ最初のステップだと思っています。いずれはオペレーションを効率化してコストを削減するだけでなく、売り上げを伸ばしたり、お客さまに選んでもらうところに注力していきたいと思っています。

    ただ、本音で言えば、自分はとても面倒くさがりなんですよ。ですので、「こうなれば、皆が楽になるはずだ」ということを実現し、面倒くさいことを早くなくしていきたいなと思っています。面倒くさいことをなくすための労力はいとわない感じです。


    境:面倒くさいことをなくすために効率化をし、仕組み化をしているんですね。非常に納得しました。しかも、自分だけではなくチームとして皆が楽になるようにするのはとても大事なことですよね。

     

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