導入の背景や課題
「選ばれるJCB」を目指し、新たなプラットフォーム「JDEP」で迅速な開発を推進
JCB システム本部デジタルソリューション開発部開発IVグループ 主幹 長沼佑樹氏
日本発唯一の国際カードブランドであるJCBは、タッチ決済やコード決済など、多様な決済手法の広がりとモバイルを中心とした金融の発達といった大きな変革期を迎えています。こうした動きに追随し、率先して新たなサービスを展開することを目的に、2021年度から中期経営計画「Plan 2024」を掲げ、「選ばれるJCB」を目指した取り組みを進めてきました。
顧客のニーズが変化する不確実な時代の中で新たなアイデアを迅速に形にし、価値あるサービスとして提供するのは、従来のオンプレミス環境を前提としたウォーターフォール開発では難しい側面があります。そこで、Google Cloud上でマイクロサービスアーキテクチャを取り入れた新たなプラットフォーム「JCB Digital Enablement Platform(JDEP)」を構築し、アジャイル・スクラム開発を取り入れて新たなプロダクトの開発に取り組んできました。
JDEPでは、開発を主管するシステム部門、ビジネス部門、当社事業に協力いただいているビジネスパートナーという様々な組織に所属するメンバーが、一つのチームとなって活動しています。
チームとしての体制を維持し、コストやセキュリティとのバランスも意識しながら、いわゆる請負開発ではなく、皆で一つのプロダクトを開発していくマインドを醸成しつつ開発に取り組んでいます。
そんな複数の開発チームを、SRE(Site Reliability Engineering)チームやデザインチーム、QSATチーム(品質保証チーム)、そしてSECチーム(セキュリティチーム)といった専門性の高いチームが支援する形で、今や全体で500人規模の体制で開発を進め、加盟店向けのWebサービスや会員向けスマホアプリケーションなど、二桁に上るプロダクトを開発してきました。
選定のポイント
バーチャルチームとしてSECチームを組織し、新たな開発手法に即した施策を推進
JCB システム本部デジタルソリューション開発部部長 片岡亮介氏
JCBはセキュリティに対し高い感度を持って取り組んできました。しかし、これまで取り組んできたセキュリティを担保するためのプロセスはウォーターフォール開発に適したものであり、新しい開発手法、新しいツールやクラウドネイティブ環境に適したルールやガイドラインを整備する必要があると考えました。
その役割を担うのがSECチームです。具体的には、①JDEPが新たなスタイルで開発するサービスやプロダクトのセキュリティレベルを高めること、②クラウドに関する知見を集約するCCoEのようにセキュリティに関する知見を集約し、効率的に施策を実施すること、③蓄積したノウハウを社内のJDEP以外の領域にも展開していくことという三つの目的を持って設立されました。
ただ、こうした目的を達成するには、社内の知見だけではカバーしきれない部分があることも認識していたそうです。
我々はあくまでもクレジットカードという事業会社の人間であり、365日ずっとセキュリティのことだけを考えるわけにはいきません。餅は餅屋で、セキュリティ専業の会社と組むことでそこを補完し、第三者の視点で客観的に物事を考えられると判断しました。
こうした理由から、JCB社内のメンバーに、NRIセキュアのSEC Team Servicesによってオンラインで参加する専門家を加えたバーチャルチームとしてSECチームを組織し、活動を進めてきました。
JCBは以前にもNRIセキュアの支援を受けたことがあり、JCBのビジネスやシステムに関する知見がありました。さらに、アジャイル開発手法やクラウドネイティブといった新たな環境におけるセキュリティに関しても豊富な知見を持つことが選択のポイントでした。
セキュリティの領域では常に最新の動向を追いかける必要がありますが、事業会社である我々がそこまで深いリサーチを行うのは難しいのが実情です。日本でトップを走りグローバルでも事業を展開するNRIセキュアの知見をいただくことでこうした部分を補い、SECチームの目的を達成できると考えました。
特に、クラウドネイティブな環境でのセキュリティに深い知見を持つエキスパートがそろっている点に心強さを感じていました。
導入後の効果
SECチームによるソリューション導入や的確なアドバイスを通して開発チームにセキュリティ意識を根付かせる
こうして設立されたSECチームは、アジャイル開発のスピードとセキュリティを両立させるさまざまな支援を行っています。
まず、開発の早い段階からセキュリティリスクを洗い出し、早期に対処する「シフトレフト」の考え方を取り入れ、静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)やソフトウェアコンポジション解析(SCA)のツールを評価・選定し、開発のパイプラインに組み込んで各チームに提供するとともに、定期的なセキュリティ診断も実施しています。
従来のシステム開発ではシステムが完成してから診断を受け、システム内の脆弱性を摘出していましたが、開発中に発見・対処することができ、効果を感じています。
同様にSECチームでは、クラウド基盤やコンテナ環境において利用するクラウドセキュリティ態勢管理(CSPM)やワークロードのセキュリティを保護するCWPPからのアラートを棚卸して対応要否を判別し、プラットフォームのセキュリティを維持する運用プロセスを整えました。
また、常に最新のセキュリティ動向をウォッチし、必要なテーマが浮上すれば具体的に検討しています。その一例が、近年注目されているソフトウェアのサプライチェーン対策です。
第三者が作ったオープンソースソフトウェアを組み合わせることには、リスクのポイントが増える側面があります。そこで、ソフトウェアの来歴を把握できるソフトウェア部品表(SBOM)と呼ばれる技術について検証し、必要に応じて提供できる状況を整えました。
この成果はJDEPの取り組みに留まらず、JCBのシステム部門内にも還元されています。
ユニークな取り組みとしては、開発チーム向けの「セキュリティ勉強会」の開催が挙げられます。SECチームではセキュアな開発を進めるためのガイドラインを策定していますが、
読み物だけでは伝わりにくいところもあります。そこで、Webアプリケーションのどこにリスクがあり、どんな脆弱性が発生しやすいのかを、演習形式で実践的に学ぶ勉強会をSECチームが主体的に定期的に実施しています。
日々の開発業務の中で浮上した疑問や不安に応える「よろず相談窓口」も設け、セキュリティ専門家の観点からアドバイスして開発チームのセキュリティ理解の促進と対策を底上げしてきました。クレジットカード業界の国際標準、PCI DSSのバージョンアップ時にも、暗号化方式に工夫を加えることで迅速に対応できる方法を提案しました。
この結果、
開発チームの成長とともにセキュリティも根付いてきました。当初は自分たちのセキュリティ判断や対策に確信が持てず、その都度、SECチームに質問してくるチームが多くありました。しかし成熟度が高まるにつれ、自分たちでリスクを把握し、ハンドリングし、必要に応じて専門家に尋ねようという自立した意識を持つチームが出てきています。
今後の展望
今後も積極的に新たなソリューションを検討し、ノウハウを社内に還元
JDEPの開発は、NRIセキュアとワンチームで進めてきたSECチームの活動を通して、開発プロセスの中にセキュリティを組み込むDevSecOpsに近づいています。
以前はものを作ってからセキュリティ診断を行うプロセスでしたが、開発のより早い段階からセキュリティを意識して対応するようになり、後手ではなくプロアクティブに活動できるようになりました。
その中で、NRIセキュアの一歩踏み込んだ支援体制を評価しています。
診断やガイドライン作成といった決められたことだけをやる会社ならば多くありますが、我々と一緒に考え、コンサルティング的な立ち位置で動ける会社は限られたところしかないと感じています。
JDEPは引き続き、高いレベルでの開発効率やアジリティとセキュリティの両立を追求し、サービスの競争力を高めていきます。
引き続きNRIセキュアの専門的な知見を得ながら、診断で指摘された内容により迅速に、効率的に対応する方法をいっそう突き詰めるほか、新たな技術トレンドを踏まえ、運用フェーズでのセキュリティのあり方も強化していきます。
生成AIなどの技術も登場しています。NRIセキュアと一緒に新たなソリューションを積極的に導入し、得られたノウハウをJCBの中にも展開していきたいと思っています。
※本文中の組織名、職名は2024年7月時点のものです