OpenIDへの社会的な注目は私の社歴の深まりと並行するように高まり、活用を計画する企業も急速に増えていった。IDだけでなく、ポイントや決済に関する機能の追加が求められることも多くなった。所属部署の規模は決して大きくはなかったから忙しかった。私自身、3年目にしてあるプロジェクトのリーダーを任された。自社製品であるUni-IDを使ったID基盤の構築プロジェクトだ。顧客との要件折衝から設計、実装から最終テスト、そしてリリースまで、チームを率いてやり抜かなければならない。上流工程である要件定義のためのヒアリングでは、当然のことだが、お客さまにはぼんやりしたイメージしかないケースが少なくなかった。あらかじめ言葉で明確化されていることはまれだ。「こんなイメージだけれど、どういうやりかたがあるの?」「決めてくれる?」――そんな言葉も出る。多くの引き出しを持ち、顧客と一緒に考えていかなければならない。
入社1,2年目はつくる技術があれば良かった。しかし、リーダーとなった今は、お客さまがそれを使って何をしたいのか、そのためにどういう機能を持たせるべきなのか、お客さまの視点で考えなければならなかった。「求められているものは何か」を、対話を重ねる中で考え抜く。プロジェクトリーダーとしての業務に、1年目のあの苦い経験が生きた。