
2026年8月6日から9日まで、米国ラスベガスで、世界有数のハッカー・カンファレンス「DEF CON 34」が開催されました。
本ブログでは、NRIセキュアテクノロジーズ(以下、NRIセキュア)と、そのグループ会社で自動車のサイバーセキュリティを専門とするNDIAS株式会社(以下、NDIAS)のメンバーが、現地で見たVillageの様子とCTF参戦の結果をレポートします。自動車にとどまらず、船舶・航空宇宙・AI・ロボットへと広がるサイバーセキュリティの現在地をご紹介します。
DEF CONとは
DEF CONは1993年に始まった、世界有数のハッカー・カンファレンスです。研究発表だけでなく、参加者同士が手を動かして学び合うコミュニティ色の強さが特徴で、「ハッカーの祭典」とも呼ばれています。会場にはテーマごとの「Village」が設けられ、専門的な展示・講演・コンテスト・ワークショップが行われます。
自動車セキュリティを専門とするNDIASにとって、DEF CONは自社の知見や技術力を実践の中で確かめる場でもあります。CTFなどへの参加を通じて、専門領域を越えた技術のつながりや新たな知見を持ち帰ることも、参加の大きな目的です。
DEF CON 34の開催状況と現地の様子
今年のDEF CON 34は、2026年8月6日(木)〜9日(日)の日程で、ラスベガスのLas Vegas Convention Centerにて開催されました。今年のテーマは「Agency(主体性・自己決定)」です。会場は3フロアにわたる広さで、初日から多くの参加者で賑わっていました。
今年の電子バッジは、会期後もセキュリティトークンとして活用できることを意識した設計でした。中核には、ハードウェアハッカーのAndrew“bunnie”Huang氏が設計したSoC「Baochip-1x」を採用。OSやファームウェア、プロセッサコア、暗号処理など多くの設計情報が公開されており、透明性と検証可能性を重視した点が大きな特徴です。コアモジュールは取り外して持ち歩くこともできます。
物販は今年も大人気で、長い列ができていました。公式アプリ「Hacker Tracker」で欲しい商品をあらかじめ選び、QRコードを提示して注文する仕組みで、支払いは現金のみなので注意が必要です。会場の「Sticker Me」ボードには今年もたくさんステッカーが貼られており、NDIASのオリジナルステッカーも貼ってきました。
今年から登場した入口のオブジェ

入口のサイネージ

今年のパンフレットとバッジ(今年のバッジは基盤つき)QRコードの表示と読み取りができるようになっていて、会場内でのコミュニケーションが促進されていました。
今年もグッズは大人気。イベント開催前日からたくさんの人が並んでいました。

Sticker meのボードは今年もたくさんのステッカーが貼られていました。

Village紹介
DEF CONを象徴する存在の一つが、テーマに特化した「Village」です。今回巡ったVillageの中から、特に印象に残ったものをご紹介します。
Car Hacking Village
NDIASが毎年中心的に参加しており、今年はゴールドスポンサーとして支援したVillageです。Car Hacking Villageでは毎年ワークショップやハンズオンを重視しており、今年も実車やハードウェアベンチに触れながら、CAN通信の傍受、無線エントリーポイントの解析、ECUの分解、セキュリティゲートウェイの回避などに取り組める環境が用意されていました。
会場にはハンヴィーやEV、EVチャージャーなどが展示され、多くの参加者で賑わっていました。今年のCHVバッジは、CAN 2.0/CAN FD、車載向けDB9コネクタ、vECU、DTCスキャン機能などを備えた実践的な学習・ハッキング用ツールになっていました。
CTFに加え、爆発物処理ロボットを操作してタイムを競う「Bomb Bot Challenge」や「Tiny Trek Challenge」、「Scavenger Hunt」など、競技以外にも手を動かして楽しめる企画が多数用意されていました。Bomb Bot Challengeでは、優勝賞品としてChallengeで使われたPackBotが用意されていました。
CHVの看板
NDIASは今年もCHVのスポンサーをしていました!
展示されていたハンヴィー

展示されていた電気自動車(EV)
展示されていたEV車とEVチャージャー。Biohacking VillageのCTFとコラボしていたようです。
今年のCHVバッジ(表)

今年のCHVバッジ(裏)
Bomb Bot Challenge看板

Bomb Bot Challengeの様子

CTF問題にもなっていた、Tiny Trek

CHVは終始たくさんの来場者で盛り上がっていました。
Maritime Hacking Village
船舶・港湾システムを対象とするVillageです。実際の海事システムを題材に、攻撃と防御を体験しながら学べる場として、ハッカー、業界関係者、政策立案者などが集まっていました。
CTFのチャレンジにも使われていたのが、会場に展示された実船です。船内にはキッチンや仮眠スペースもあり、実際の運用環境をそのまま持ち込んだような展示でした。会場で伺った説明によると、この船は米国沿岸警備隊補助隊の捜索救難活動で使われている現役艇で、DEF CONのわずか1週間前にも実際の救助活動に出動していたそうです。船にはその時の痕跡が生々しく残っており、DEF CON終了後は再び海へ戻っていくとのことでした。
MHVの入口

CTFのチャレンジにもなっていたボート

ボートの中は誰でも入れます

エンジンはHonda製でした。
IoT Village
「Hack all the things」を掲げ、あらゆるIoT機器のセキュリティを扱うVillageです。専門企業のISE(Independent Security Evaluators)が主催し、専門家による講演やハンズオンラボ、最新IoT機器のバグハンティング、ハッキングコンテストが行われていました。これまでに数百件の新たな脆弱性を明らかにしてきた実績あるVillageです。
販売されていた猫型のバッジがとても印象的でした。猫をかたどったツールも並び、硬派な技術展示の中に遊び心が感じられました。
IoT Villageの看板
ペット製品のハッキングについて説明するブース
販売されていた猫型のバッジ
バッジ以外にもさまざまなツールが販売されていました。
AI Village
今年のAI Villageでは、プロンプトインジェクションをはじめとするAIセキュリティを、実際に手を動かして学べる企画が多数用意されていました。メインコンテストの「HalCTF」は、参加者が自律AIエージェントを設計・実行し、サンドボックス内のターゲットを攻略してフラグ獲得を目指すというものでした。
遊び心のある企画として印象的だったのが「AI Village Plays Pokémon」です。AIエージェントを構築し、ポケモンのゲームをどこまで進められるかを競う内容で、ブースでは博士のコスプレをしたスタッフが仕組みを説明してくれました。ほかにも「AI ART BATTLE」や、画像が本物かディープフェイクかを見分けるゲーム、ディープフェイクを体験できるブースなどがあり、AIを攻撃・防御の両面から体験できる場になっていました。
AI Village入口

ポケモンのデモ画面を博士の格好をしたブースの方が説明してくれました。

自分でカメラに写ってディープフェイクコンテンツになれる体験デモブース

Aerospace Village
航空・宇宙システムのセキュリティを扱うVillageです。ハッカー、エンジニア、パイロット、政策関係者など、官民の多様なメンバーが参加し、安全で信頼できる航空・宇宙の運用を共通の目標として活動しています。航空安全とサイバーセキュリティを切り離さず、関係者が連携して取り組む姿勢が印象的でした。
ブースでは、レゴブロックを使って航空プロトコルを学べる「Bricks in the Air」などのハンズオン展示があり、航空機から人工衛星まで幅広いテーマが扱われていました。
Aerospace Village入口

Villageの様子

Bricks in the Airのハンズオンブース
Robotic Hacking Community
今回「Village」ではなく「Community」として登場したRobotic Hacking Communityも印象的でした。Physical AIやロボティクスのセキュリティをテーマに、ハンズオンやCTFなどを展開していました。
自律ロボットや物理AIは、乗っ取られてもデータが漏れるだけでは済まず、「間違ったものを掴む」「人のいる空間に進入する」といった現実世界への影響を及ぼす、新しい攻撃面だという問題提起も印象的でした。ROS2やセンサースプーフィング、ファームウェアを対象にした「Robotic CTF」も開催され、ロボットをハッキングするとロボットがもらえるチャレンジもありました。勢いのあるコミュニティであり、将来的に正式なVillageへ格上げされる可能性も感じられました。
Robotic Hacking Communityブース入口
展示されていたロボット

ロボットをハッキングするチャレンジをやっていました。

CTFへの参加
NDIASからは、車載セキュリティに特化したエンジニア有志チーム「cartagaitai」が、今年もCTFに参戦しました。今回挑んだのは、Car Hacking VillageとMaritime Hacking Villageの2つのCTFです。
Car Hacking Village CTF 2026 ― 80を超えるチームの中、総合2位
Car Hacking Villageで開催される車両系CTFで、ソフトウェアだけでなく、実ECUや車両ハーネスなどの物理ターゲットを扱うのが特徴です。CAN通信の解析、ファームウェアのリバースエンジニアリング、無線(RF)の解析など、ソフトウェアからハードウェアまで横断する複合的なスキルが求められます。
今回cartagaitaiは、現地8名とリモート1名(NRIセキュア所属メンバーを含む)の体制で参加しました。AIも活用しながら5カテゴリ・全19問を1日半で完答し、参加80チームを超える中、総合2位に入賞しました。
出題には、ミニEVチャージャーを攻略する問題、模擬車両をHTTP経由のCANで操作する問題、車載インフォテインメント(IVI)にWi-Fi経由で侵入する問題、現地で購入できるCHVバッジを解析する問題などがありました。前年の5位から大きく順位を上げる結果となりました。
スコアボードとcartagaitaiのメンバー

CTFに取り組むcartagaitaiメンバー
CTFに取り組むcartagaitaiメンバー
Maritime Hacking Village CTF 2026 ― GREENLAND部門1位
開催2年目の船舶系CTFで、cartagaitaiはCar Hacking Village CTFに続いて2日目から参戦しました。50問以上の課題があり、現地でしか解けない問題も多数用意されていました。
チーム人数の制限により4名で参加しましたが、CANなど車載分野で培った知見を応用できる場面も多く、最終日に逆転。参加60チーム超の中で、GREENLAND(AI使用可)部門1位を獲得しました。
出題には、実際の船舶に乗り込んで解析する問題、電子海図表示情報システム(ECDIS)に干渉する問題、GPS信号を解析する問題など、海事ならではのテーマが並びました。
CTFに取り組むcartagaitaiメンバー

表彰式後にMHVのスタッフさんとcartagaitaiメンバー

おわりに
DEF CON 34では、テーマ「Agency」のもと、自動車、船舶、航空宇宙、AI、ロボットなど、サイバーセキュリティの対象がさらに広がっていることを強く感じました。特に、ソフトウェア上の侵害が機器の認識や判断、動作にまで影響し得る領域では、従来のITセキュリティとは異なる視点が求められます。各Villageを巡る中で、分野を越えた技術や知見のつながりと、RSA ConferenceやBlack Hatとはまた違ったDEF CONならではのコミュニティの熱量を体感できました。
今回参加したCTFの技術的な解説や、注目セッションのレポートは、別ブログで改めて詳しくご紹介する予定です。また、cartagaitaiの活動や大会の振り返りは、勉強会でも共有していきます。
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勉強会開催予定:2026/9/11(金) 19:00-21:30
最後に、NDIASでは、自動車に関する脅威・脆弱性の観測結果と、今後のセキュリティ強化につながるトレンドをまとめた年間レポートを発行しています。公開中の最新版ダイジェストは無料でダウンロードいただけます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。















