2026年7月7日、NRIセキュアは半導体事業者を対象としたオフラインイベント「半導体産業を守るセキュリティ最前線」を、東京エレクトロン デバイス株式会社との共催で、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催しました。
本イベントには半導体業界の25社29名が参加し、東京エレクトロン株式会社 情報セキュリティ部 部長の萩尾 英二氏をはじめとするゲストによる講演や、半導体メーカー、装置メーカーの実務者を交えたパネルディスカッションを実施。NRIセキュアによる講演とあわせて、半導体業界に迫る法規制の動向と、現場で実効性のあるセキュリティ対策について議論・共有が行われました。
2018年にはファウンドリ大手におけるランサムウェア被害が発生するなど、半導体業界では近年、サプライチェーンを含むサイバーリスクへの警戒が高まっています。こうしたなか、欧州サイバーレジリエンス法(CRA)やSEMI規格、経済産業省のガイドラインなど、半導体サプライチェーンに関わる法規制・業界標準の整備が急速に進んでいます。
一方で、これらへの対応を実務へ落とし込む段階では、本社(IT部門)と工場(現場)の間にある「温度差」や「言葉の壁」といった、より現実的な課題が浮き彫りになってきました。
本イベントでは、「本社と現場をつなぐ実践的アプローチ」をテーマに掲げ、3つの講演とパネルディスカッションを通じて、法規制対応の勘所から現場実装の工夫までを多角的に取り上げました。本稿では、当日の様子をお届けします。
本イベントでは、半導体業界のセキュリティ対策について、法規制・業界規格への対応から、工場での具体的な対策、本社と現場の連携まで幅広く議論しました。ここでは、主なポイントを紹介します。
欧州CRAでは2026年9月から報告義務の適用が始まります。講演では、CRAに加えてSEMI規格や経済産業省のガイドラインなど、それぞれの要求を整理しながら対応していく必要性が示されました。
→ 詳しくは「講演①|半導体サプライチェーンに迫る法規制と業界規格の波」
東京エレクトロンでは、資産管理を起点に、アクセス制御、攻撃の検知・対応、マイクロセグメンテーションへと段階的にOTセキュリティ対策を進めてきました。その実践例に加え、サプライチェーン対策の取り組みも紹介されました。
→ 詳しくは「講演②|東京エレクトロンのサプライチェーンセキュリティ対策」
レガシーOSやクローズド環境など、工場ではIT環境とは異なる制約があります。こうした環境に対し、Purdueモデルによるネットワーク分割や、可用性を考慮したリスクベースの優先順位付けなど、具体的な対策アプローチが紹介されました。
→ 詳しくは「講演③|半導体業界向け生産拠点に対するサイバーセキュリティ対策」
対策を現場に定着させるには、ルールを整備するだけでなく、責任者・担当者を明確にし、リスクを踏まえて段階的に取り組むことが重要です。さらに、本社IT部門と工場の現場が相互理解を深めるため、双方向の人的交流も重要との意見が挙がりました。
→ 詳しくは「パネルディスカッション|本社と現場をつなぐセキュリティ戦略とは」
「半導体サプライチェーンに迫る法規制と業界規格の波 ~欧州CRAの法的義務とSEMI規格への顧客要求、経産省指針を統合した戦略的視点~」と題し、NRIセキュア IndustrialCyberSecurity事業部の野口 大輔が登壇しました。
はじめに、半導体業界を取り巻く脅威動向として、海外拠点を中心にランサムウェア被害が散発的に発生し、その背後には国家主導型とみられる攻撃者の存在も指摘されていることを共有。サプライチェーンの裾野が広い同業界では、一拠点の侵害が業界全体のリスクに直結すると解説しました。
続いて、欧州CRAの具体的な要件を整理しました。対象製品が「デジタル要素を含む製品」と広範であること、「製造義務」と「報告義務」の2種類が課され、報告義務は2026年9月から適用が始まること、違反時にはグローバル売上の一定割合が制裁金として科され得ることを示しました。
あわせて、SEMI規格(E187/E188)への顧客要求や経済産業省のガイドラインにも触れ、サプライヤーとの役割分担(CIA:Cybersecurity Interface Agreement)を含む実効的な対応体制の必要性を提言。自動車業界での支援実績や、フロンティアAIを活用した支援サービスの取り組みも紹介しました。
「東京エレクトロンのサプライチェーンセキュリティ対策」と題した講演には、東京エレクトロン株式会社 情報セキュリティ部 部長の萩尾 英二氏にご登壇いただきました。
萩尾氏は、国際的な半導体業界標準化団体SEMIの傘下で設立されたサイバーセキュリティ標準化団体「SMCC(Semiconductor Manufacturing Cybersecurity Consortium)」において、サプライチェーンセキュリティを扱うワーキンググループの座長を務めておられます。
講演では、半導体製造装置のデファクト標準となりつつあるSEMI E187や、工場のマルウェア感染防止を目的としたE188などの動向を解説。あわせて、自社のOTセキュリティの取り組みとして、資産管理の徹底を起点に、アクセス制御・攻撃検知・対応・マイクロセグメンテーションによる被害の極小化までを実践してきた過程を紹介いただきました。
さらに、サプライチェーン対策として、経済産業省のサプライチェーン強化に向けた評価制度(SCS評価制度)の実証実験に参加された経験や、業界での共通チェックリスト活用の取り組みについても共有いただきました。
「半導体業界向け生産拠点に対するサイバーセキュリティ対策」と題した講演には、東京エレクトロン デバイス株式会社 EC BU クラウドIoTカンパニー IIoTソリューション部の山内 一晃氏にご登壇いただきました。
山内氏は、最新の脅威動向やランサムウェアの感染経路を整理したうえで、工場(生産拠点)特有の課題として、サポートが終了したレガシーOSが現役で稼働している、クローズド環境ゆえにアップデートやデータ受け渡しが難しい、本社IT部門と工場の現場とで役割や予算が分かれている、といった実情を指摘しました。
そのうえで、経済産業省のガイドラインやSEMI規格の要点、Purdueモデルを用いた工場ネットワークの論理分割、可用性を重視したリスクベースの優先度付けなど、具体的な対策アプローチを解説しました。
同社が代理店として取り扱うOTセキュリティ製品も交えつつ、実際に報じられたサイバー攻撃事例を複数取り上げ、「どこかの段階で被害を止められた可能性」という観点から、多層的な対策の重要性を示しました。
本イベントのテーマを象徴するセッションとして、「本社と現場をつなぐセキュリティ戦略とは ~半導体企業に求められる実践的アプローチを議論~」と題したパネルディスカッションを実施しました。
ローム・アッセンブリ マニュファクチャリング株式会社の井上 正 氏、東京エレクトロン デバイス株式会社の長尾 圭輔 氏、NRIセキュア IndustrialCyberSecurity事業部の半田 伸太郎が登壇し、NRIセキュアの渡辺 貴之がモデレーターを務めました。
前半は「本社と現場の温度差をどう乗り越えるか」をテーマに議論しました。トップダウンでの合意形成が有効である一方、ルールを整備するだけでは現場に落とし込めず、リスクアセスメントで優先度を見極めながら段階的に対策を進めること、そして責任者・担当者を明確に定める体制整備が不可欠であるとの認識が共有されました。工場では可用性、すなわち装置を止めないことが重視されるため、IT部門の常識をそのまま持ち込むのではなく、現場の事情に寄り添う必要があるという指摘も挙がりました。
また、本社と現場が用いる「言葉の違い」を埋める工夫として、IT担当者が一定期間現場に入る、あるいは現場担当者にセキュリティ業務を体験してもらうといった、双方向の交流の重要性が語られました。
後半では、USBを起点とした感染対策、OA環境とOT環境の分離、VPNからゼロトラスト(ZTNA)への移行、資産の棚卸しとガバナンスの効かせ方など、各社が現場で積み重ねてきた実践的な工夫が具体的に共有され、会場の参加者からも活発な質問が寄せられました。
イベント終了後には、登壇者・参加者・NRIセキュア社員が一堂に会する懇親会を開催しました。半導体業界に共通する課題や次の一手について、名刺交換や意見交換が活発に行われ、和やかな雰囲気のなかで交流が深まりました。
半導体業界を対象とした本イベントでは、共催の東京エレクトロン デバイス株式会社、そしてゲスト登壇者の皆さまのご協力のもと、法規制対応の最前線から現場実装の実情まで、幅広いテーマを扱うことができました。
本イベントで取り上げた内容を踏まえると、まずは自社の現状を把握し、対応の優先順位を定めることが重要です。具体的には、以下のような取り組みが第一歩となります。
NRIセキュアは、半導体業界をはじめ幅広い企業に対し、法規制対応の初期診断から現場における実装まで、実効性の高いセキュリティ強化を継続して支援してまいります。
半導体産業を守るセキュリティ最前線 ~「本社」と「現場」をつなぐ実践的アプローチ~
主催:NRIセキュアテクノロジーズ株式会社
共催:東京エレクトロン デバイス株式会社
日時:2026年7月7日
会場:東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区港南1-9-36 アレア品川)
参加:半導体業界25社29名