企業のデジタル化が加速する中、サイバー攻撃の手法も日々進化しています。ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、内部不正など、かつてない多様性とスピードで脅威が襲いかかる現代において、もはやセキュリティ対策はIT部門の専任領域ではありません。経営に直結するリスク管理の一環として、セキュリティ対策への投資と運用体制の整備が企業に強く求められています。
今回は、そのセキュリティ運用において中核を担うSIEMの中でも、昨今注目されている次世代SIEMに焦点を当てて解説したいと思います。
従来型SIEM(Security Information and Event Management)は、ファイアウォールやエンドポイント、サーバーなどからログを集約・分析し、異常な挙動を検出・通知する仕組みとして長年活用されています。主な機能は、ログの正規化と保存、事前に定義した相関ルールによるアラート生成、レポート出力といったもので、運用はアナリストによる手動確認が中心です。
一方、サイバー脅威が巧妙化・高速化し、攻撃が数時間で情報流出に至る時代となった今、静的なルールベースの検知と人手中心の対応では限界が見えてきています。そこで登場したのが、「次世代SIEM」です。
次世代SIEMは、従来のSIEMの機能に加え、以下のような特徴を備えています。
ユーザーやシステムの振る舞いを常時学習・分析し、過去にない挙動やリスクの高いパターンを自動で検出します。
検知したアラートに対し、調査、隔離、通知、証跡収集などの初期対応を自動実行します。
※SOARについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
SOARとは?セキュリティ運用の自動化により得られる3つのメリット
最新の攻撃手法や脅威情報とリアルタイムに連携し、検知ルールやSOARに自動反映します。
経営判断に必要なリスク状況やインシデントの対応ステータスを、誰にでも直感的に伝えられる形式で「見える化」します。
従来型のSIEMと次世代SIEMを比較した表は以下のとおりです。
比較項目 |
従来型SIEM |
次世代SIEM |
脅威検知の手法 |
定義済みのルールベース →既知の攻撃には対応可能 |
UEBAを活用 →未知の攻撃や内部不正にも対応 |
アラート処理 |
人手による対応が前提 |
SOAR連携による自動対応 |
可視化 |
ログベースで専門的、視認性が低い |
ダッシュボードでリアルタイム可視化 |
対応スピード |
初動~調査に時間がかかる (担当者のスキルに依存) |
SOARにより短縮 |
運用負荷 |
大量のアラートを手動対応 |
自動トリアージ(アラートの分類と優先度の判断)とSOARにより省力化 |
情報連携 |
自社ログが中心 |
外部脅威インテリジェンスと連携 →最新の攻撃傾向を反映可能 |
次世代SIEMの導入は、単なるセキュリティ強化にとどまらず、企業のレジリエンス(回復力)と運用効率を高める投資でもあります。ここでは、次世代SIEMを導入することで企業にもたらす3つのメリットについてピックアップして解説します。
現代のサイバー攻撃は、かつてと比べて遥かに高速かつ巧妙です。近年では、不正アクセスから横展開や情報流出までの平均時間(ブレイクアウトタイム)がわずか数日、あるいは数時間にまで短縮されているといわれています。
(出典:CrowdStrike社「グローバル脅威レポート」を基に作成)
このような状況において、インシデントの早期検知と初動体制の構築は不可欠です。次世代SIEMは、AIを活用したUEBAにより、潜在的な異常をリアルタイムで検出し、攻撃の兆候を早期に検知することができます。また、SOARとの連携によって、アラートに対する初動対応や調査を自動化することで迅速な対応を行う事ができます。
従来の運用では、日々大量に生成されるアラートに対して、アナリストが手作業で精査・対応していました。次世代SIEMでは、AIを活用して、生成されたアラートに対して、アラートの分類や優先順位付けを自動的に行うことができます。
また、SOARとの連携により、検知から初期対応までのフローを自動化することができます。例えば、異常検知後に端末の隔離や通知、証跡の収集までを自動で実行し、対応のスピードを向上させます。
次世代SIEMは単なるログ収集ツールではなく、全社的なリスク状況をダッシュボードやレポートで「見える化」し、経営者・技術担当者がタイムリーに状況把握と判断を下せる仕組みを提供します。例えば、「自社が今どんな脅威に晒されているのか」「どの拠点が脆弱なのか」「外部への通報・報告は必要か」といった判断材料を明確にします。
次世代SIEMは、高度な脅威検出や自動化など多くの利点を備えていますが、導入すればすぐに成果が出るわけではありません。実際の運用フェーズでは、いくつかの共通した課題に直面することが少なくありません。
次世代SIEMはAIによる異常検知、振る舞い分析(UEBA)、SOAR連携(自動化フロー)、ダッシュボードやレポート機能など、多機能なセキュリティ運用を可能にします。
しかし、これらの高度な機能を活かすためには、各機能間の連携設定や、SOARにおけるアラート対応のシナリオ定義や自動化設計が必要になります。セキュリティに関する専門知識だけでなく、システム設計・自動化・データ分析に強い人材の存在が不可欠となります。
次世代SIEMの強みの一つは、複数のログを横断的に分析し、インシデントの全体像を的確に把握できる相関ルールや、SOARによる自動対応フローの実行です。しかしこれらは一度作って終わりではなく、継続的なメンテナンスが必要です。
新たな脅威インテリジェンスの追加、内部システムの変更、攻撃手法の進化などに対応するためには、既存ルールや自動化フローの見直しが欠かせません。
欧米を中心とした海外企業では、セキュリティ運用の内製化が進んでおり、SOCを社内に持ち、インシデント検知から対応、再発防止策までを自社の体制で継続的に回す企業が増えてきています。これに対し日本企業では、セキュリティ人材が不足しているケースが少なくありません。情報システム部門の担当者がセキュリティ運用を「兼任」していることも多く、限られたリソースでの対応が求められます。
セキュリティ運用のリソースの一部を外部に委託して、自社ではアラート検知後の対応に集中する体制を構築することも、効率的な現実解のひとつです。
以下では、次世代SIEMを実用的に、そして効果的に活用していくための主なポイントを紹介します。
SIEM導入の初期段階で、組織としての「何を守りたいのか」「どのリスクを可視化したいのか」を明確にすることが重要です。
対象範囲を無闇に広げるのではなく、まずは優先順位の高い業務・資産・脅威シナリオに絞って始めることが、無理のない運用と成果の可視化につながります。
例えば、インターネットバンキングを提供している金融機関の場合、顧客口座情報(データベース)や顧客の認証情報は優先度の高い情報資産です。まずはユーザ認証とデータベース操作に関するログを重点的に可視化、分析することで、初期段階でも実効性の高いリスク検出が可能となります。
次世代SIEMは、初期設定のままでは本来のパフォーマンスを発揮できません。運用を開始してからこそ、「どのアラートが本当に有効か」「改善すべき検知ロジックは何か」といった知見が蓄積されていきます。
この継続的な改善活動(PDCA)は、ある程度の経験と専門知識を要する部分でもあります。
SIEMの運用は、検知・分析・対応といった一連のセキュリティ業務に加え、その効果を組織全体で共有・理解する仕組みづくりも重要です。
例えば「どのようなアラートが発生し、どれだけ早く対応できたか」「繰り返し発生するインシデントはあるか」といった運用状況を、ダッシュボードやレポート機能を通じて可視化することで、現場の活動が数字やグラフとして共有されやすくなります。
こうした「見える化」は、関係部門との共通理解を生み出し、対策の優先順位付けやリソース配分の判断にも役立ちます。加えて、「平均対応時間」「重大アラートの削減率」などのKPIを定めて定期的に振り返ることで、運用改善のサイクルを継続的に回すことが可能となります。
次世代SIEMは、ログ収集・検索ツールの枠を超え、脅威のリアルタイム検知や自動対応、運用の見える化など、様々な機能を備えた、高度なセキュリティソリューションです。
しかし、その真価を発揮するには、製品そのもの以上に「どう運用するか」が鍵になります。目的の明確化、継続的なチューニング、SOARとの適切な連携、運用状況の見える化など、それぞれの要素を組み合わせる必要があります。
変化し続ける脅威に対し、セキュリティ運用もまた進化し続けなければなりません。必要に応じて外部の支援や専門知見を柔軟に活用しつつ、自社にとって最適な運用モデルを構築していくことが、長期的な価値創出につながるはずです。
なお、当社では、お客様環境で所有されているSIEMに対して、当社のSOC専任担当者が、検知ルールの要件定義・設計・実装・維持管理を行い、24時間365日体制でのアラートの検出と分析を実施する「SIEM監視サービス」を提供しています。また、これからSIEM導入を検討されているお客様や、SIEM運用でなにかお困りのことがございましたら、お気軽にご相談いただけますと幸いです。
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