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Agentic SOC でアナリストは「オーケストレーター」へ | エージェントを安全・高品質に統制する基盤 “AgenticBlue”

作成者: 芳賀 夢久|2026/08/06

攻撃が AI で自律化する時代に、防御側は AI をどう動かすか

攻撃側は、すでに AI を使い始めています。Anthropic が 2026 年 6 月に公表した分析では、攻撃者が AI エージェントを自律的な攻撃基盤として使い、偵察から侵害までを人手をほとんど介さず実行した事例が報告されました※1

 

攻撃がここまで自律化する以上、防御側も AI を本格的に取り込むほかありません。問題は、その AI をどう動かすかです。

 

数ある防御領域のなかでも、人手の負荷が大きいのが SOC(セキュリティ監視)です。自律的に判断し、調査し、結論まで導く AI エージェント。

 

これを SOC のオペレーションに本格的に組み込めたら——そう考えたことのあるセキュリティ運用者は、少なくないはずです。

 

ただ、各アナリストが手元の端末で汎用 AI チャットツールを立ち上げ、思い思いに分析する。その光景は、はたして本番環境で運用できる姿でしょうか。品質を誰が担保し、機密データをどう守り、下した判断の根拠をどう残すのか。本番の SOC で問われるこうした点に、素のツールはほとんど答えを持ちません。

 

“AgenticBlue”(※商標出願中)は、AI エージェントによる SOC オペレーションを、統制・品質保証・監視のもとで安全かつ高品質に運用するための、NRI セキュアの独自プラットフォームです。

 

主眼は、賢い AI を動かすことそのものというよりも、それを組織として安全に運用できる基盤づくりにあります。

 

この基盤が応えようとしているのは、SOC の運用現場が長くかかえてきた課題です。

 

日々寄せられる多くのアラートの一つひとつを、アナリストが調査・判定・報告する一次分析(Tier 1)を、来る日も来る日も人手と熟練で支えており、アラートが増えればその工数も積み上がっていきます。

 

ここには、いくつもの課題があります。

  • 品質のばらつき:処理の質がアナリスト個人のスキルに依存し、判断が一定しない。
  • ノウハウの属人化:熟練者の勘どころが個人に留まり、組織の資産にならない。
  • アラート疲れ:大量のアラートに追われ、本来は高度な脅威分析へ向けるべき人材が、定型処理に時間を奪われる。

こうした課題を乗り越えるのが、NRI セキュアの AgenticBlue です。

 

最も工数のかかる一次分析(Tier 1)から実用化を進めており、分析精度や処理時間で確かな成果を上げています。ここで確立した統制と品質保証を土台に、より高度なオペレーション(Tier 2・Tier 3)へ広げていきます。

 

本稿では、すでに動き始めている一次分析を中心にご説明します。

※1 Mapping AI-enabled cyber threats: Insights from the LLM ATT&CK Navigator \ Anthropic 

 

 

 

AI は賢いが、物知りではない

組織知を「Skill」としてコード化する

汎用的な AI は推論能力こそ高いものの、そのままでは現場で使えません。

 

お客様ごとのシステム構成、調査の手順、重要度の判定基準、報告書の書式。こうした組織固有の知識を、何ひとつ持っていないからです。賢いことと、現場を知っていることは違います。

 

そこで私たちは、これらの組織知を「Skill」(AI に手順や判断基準を教え込むための記述)としてコード化し、 AI に注入する設計を採りました。

 

熟練アナリストが頭の中だけで回している判断のロジックを、手順書や判定基準のかたちでコードに書き起こし、AI に渡します。

 

「何を教えるかで、AI の価値が決まる」

 

Skill という器そのものは、誰でも作れます。本当に難しいのは、そこに何を書き込むかです。

 

どのアラートをどの順で疑い、どこまで掘れば攻撃の成立を見極められ、何をもって誤検知と切るのか——その判断の勘どころは、一朝一夕には書けません。

 

NRI セキュアは、数百社に及ぶ企業のセキュリティ監視を長年担うなかで、この勘どころを蓄積してきました。AgenticBlue の Skill に書き込まれているのは、まさにその実運用で磨かれたドメイン知識です。ツールの組み合わせは真似できても、中身のノウハウは一日では埋まりません。

 

これは、先ほど挙げた「ノウハウが個人に留まる」という運用の課題への、直接の答えでもあります。暗黙知を属人的なまま放置せず、コードという組織の資産に変えていく。一度コード化した判断基準は、誰が動かしても同じように働きます。

役割を分けたエージェントが、4 フェーズを連続実行する

Skill を与えられた AI エージェントは、一次分析をトリアージ(Triaging)→ 分析(Analyzing)→ 重要度判定(Scoring)→ 報告(Reporting)の4フェーズに沿って進めます。

 

AgenticBlue は、この流れを途中に手作業を挟まず連続して走らせます。

 

仕組みの要は、役割を分けた複数の AI エージェントの連携です。全体の流れを束ねる「オーケストレーター」が各フェーズを順に進め、SIEM(ログを集約・検索する監視基盤)の検索といった実作業は「実行役」のエージェントが担います。

 

実行役は複数を並行して動かせるので、人手では時間のかかる広く深い調査も滞りなく進みます。そして各フェーズの区切りには、独立した「レビュー役」のエージェントが品質ゲートとして立ち、基準を満たさなければやり直しを促します。

 

生成する役と評価する役をあえて分けているのは、一体型で起こりがちな「自分の出力を自分で甘く採点する」事態を防ぐためです。

 

フェーズの順序と境界は確定的に固定しつつ、各フェーズ内の分析推論には AI の柔軟性を残す。この「枠は固く、中は柔らかく」という設計が、自律性と統制を両立させます。

AgenticBlue が実現する、エンタープライズ品質の運用

ここまでの仕組みを読むと、誰でも同じものを作れるのではないか、と思われるかもしれません。

 

AI クライアントに組織知の Skill を与え、MCP(Model Context Protocol : AI と外部システムを結ぶ標準仕様)でデータにつなぐ。こうした道具立ては、いまや誰の手にも届き、組み合わせればエージェントは動き出します。

 

しかし、それだけでは本番のセキュリティ運用には乗りません。手元でエージェントを動かしてみることと、それを顧客のデータを預かる SOC で日々回し続けることのあいだには、深い溝があります。

 

冒頭の光景——各アナリストが端末で汎用 AI ツールを立ち上げ、思い思いに分析する姿——を、もう一度思い浮かべてみてください。誰がどの権限で動かしているのか。認証情報はどこで管理されるのか。顧客の機密データは外に漏れないか。下した判断の根拠を、後から追えるのか。組織で安全に回すのに必要なものが、いくつも抜け落ちています。

 

個々の技術が誰の手にも届くようになったいま、差がつくのは、それらを本番運用に堪える統制で囲めるかどうかです。

 

AI エージェントを企業の SOC で運用しようとすると、品質・セキュリティ・データガバナンス・説明可能性という 4 つの壁が立ちはだかります。AgenticBlue は、この一つひとつに具体的な対策で応えています。

直面する課題

AgenticBlue の対策

品質

LLM は同じ入力でも出力が揺れ、放っておけば品質がばらつく

手順・判定基準を Skill として標準化し Git で管理/生成役と評価役を分け、レビュー役が品質ゲートで検証

セキュリティ統制

汎用 AI クライアントは個人端末前提で、組織として統制を効かせにくい

共用 WebUI に集約し RBAC(役割ベースのアクセス制御)で権限管理/代理キーで認証情報を一元管理/実行環境をサンドボックスで隔離/実行可能なアクション・ツールを許可制で統合管理

データガバナンス

SOC の性質上、監視環境の機密情報を AI に渡さざるを得ない

入力データが外部に出ず学習にも使われないクローズド環境で実行/渡すデータを必要最小限に絞る/不要な重要情報は検知してマスク

説明可能性

AI が出した結論の根拠が不透明だと、判断を信頼も検証もできない

推論を構造化された型に沿わせる/推論・ツール実行・判断の全ステップを可観測( Observable)にし、後から追跡・検証できるようにする

これらの対策に共通するのは、AI をブラックボックスのまま信じないという姿勢です。

 

推論や判断の過程を開いて検証できるようにし、現在は重要な局面で人が承認して確定させる運用としています。だからこそ SOC アナリストは、「なぜこの判定に至ったのか」をお客様に根拠を持って説明でき、分析結果への説明責任を果たせます。

 

将来的には、リスクが低くパターンの定まった一部のオペレーションについては、十分な統制と検証を前提に、人の介在なしで完結させることも視野に入れています。

 

ただしそれは人を外すこと自体が目的なのではなく、どこまで自律に委ね、どこに人の関門を残すかを、対象の重要度に応じて設計するという考え方です。推論と判断の過程を検証可能に保つという姿勢は、自律の度合いにかかわらず変わりません。

単なる AI エージェントではなく、プラットフォーム全体

AgenticBlue の統制は、DevOps から MLOps、LLMOps へと積み上がってきた運用の体系を土台にしています。これをエージェントの推論・行動というプロセスそのものにまで広げた枠組みが AgentOps※2であり、その 7 つの観点に沿って体系的に設計しています(下図)。

 

プラットフォームという観点では、特定の SIEM 製品に縛られないことも AgenticBlue の特徴です。

 

SIEM に組み込まれた AI 機能も有効な選択肢ですが、機能がその製品に閉じてしまうと、自組織固有の手順書や判定基準を深く反映させたい場合に限界があります。AgenticBlue は MCP でデータアクセスを抽象化し、特定の製品に縛られず、既存の SIEM 基盤に合わせて連携できます。

 

自動化の発想そのものも、従来とは違います。

 

従来の SOAR(セキュリティ運用の定型作業を自動化する仕組み)が「人のワークフロー」を自動化するものだったのに対し、AgenticBlue が自動化するのは「エージェントのワークフロー」です。人手の手順をなぞって効率化するのではなく、AI エージェント自身が調査・分析・判断を進める流れそのものを組み立てます。

 

「賢いエージェントを動かすことと、それを組織として安全に運用できる基盤を作ることは、別物である。」

 

AgenticBlue を「単なる AI エージェント」ではないと申し上げてきたのは、このためです。

 

AgenticBlue は、エージェントのワークフローを、統制・品質保証・監視付きで本番運用できるようにした、エンタープライズ品質のプラットフォーム全体を指します。私たちが差別化できると考えているのは、まさにこの統制の作り込みです。

 

※2 Liming Dong et al. (2024) "AgentOps: Enabling Observability of LLM Agents"

オペレーターから、オーケストレーターへ

組織が得られる 3 つの価値

組織として得られるものは、次の 3 つです。

  • 安定した分析品質:担当者のスキル差によらず、定義された手順と基準に沿った一定品質の分析・報告を受け取れる。
  • 属人化からの解放と継続性:熟練者の暗黙知がコード化され、担当者の異動・退職に左右されず品質を保ち続けられる。
  • 重大脅威への即応力:定型的な一次分析を AI が担うことで、人的リソースを高度な脅威分析・インシデント対応に集中でき、いざという時の対応力が高まる。

冒頭で挙げた品質のばらつき・属人化・アラート疲れに、それぞれ正面から効かせる設計です。一次分析にかかる時間が縮み、報告の品質も底上げされます。

変わるのは、人の役割

AI が一次分析を引き受けても、人の役割がなくなるわけではありません。

 

多くの局面では、先に述べたとおり、最終的な承認や、AI が判断に迷う場面での介在を人が担います。将来的に一部のオペレーションを人の介在なしで完結させる場合も、人の仕事が消えるわけではなく、個々の確定作業から、どこまでを自律に委ねるかの設計と、エージェント群の監督・検証へと軸足が移ります。

 

変わるのは、人の役割です。

 

アナリストは、脅威ハンティングやインシデント対応の深化といった、人にしかできない仕事へと軸足を移し、その役割は「作業者(オペレーター)」から、複数の AI エージェントを監督する「指揮者(オーケストレーター)」へと変わっていきます。

 

AgenticBlue 内部の「オーケストレーター」は、決められた 4 フェーズを順序どおりに回す統括役です。人間が担うのはその一段上の指揮——委任の設計、エージェント群の監督・検証、AI が迷う高度な局面の引き取り——であり、決められた流れを回すのではなく、流れそのものを設計し統べます。

 

AI は人を置き換えるのではなく、人がより重要な判断に集中できるよう、その手前を受け持つ。

 

AgenticBlue が目指すのは、この役割の移行です。

 

自社の SOC 運用で、負荷や品質のばらつきに課題を感じておられるなら、AI を取り込んだ次の SOC の姿について、一度 NRI セキュアにご相談ください。

 

長年の SOC 運用で培った知見と、エンタープライズ品質の統制を土台に、お客様の現状に即したかたちでお応えします。